「イチロー、こっちに来てくれ」
一郎が衛宮に呼ばれて顔を上げると、遠くの方でスポットライトの明かり灯っていた。
一郎は明かりのところまで歩いていき、そのあまりにも壮絶な光景に絶句した。大量の血を流して絶命した男たちの死体が、あちらこちらに転がっていた。先程まで動いでいた人間が、今は物言わぬ肉の塊になっている。
死体の数は四体。
衛宮が地面に押さえ付け、額に銃を突き付けている男だけが――まだかろうじて生きていた。
オールバックの男だった。
男は腹部に銃弾を受けており、赤い血がどくどくと流れ続けていた。致命傷なのは明らかで、今直ぐ治療しなければ助かりそうもなかった。
「いいか? 死にたくなければ良く聞け。お前が婁圭虎の命令を受けていることは分っている。奴は今どこにる?」
衛宮は銃を強く押し当て、トリガーに指をかけて脅した。
「待て、待ってくれ。俺は何も知らねえ。俺たちは、ただ依頼を受けただけだ。大金の出る仕事だったから受けただけなんだ」
衛宮は男の腹部に指を差しこんで抉った。
銃弾を受けた傷口から大量に血がこぼれた。
「ぎぁああああああああああああああああああ」
「このままだと、お前は出血多量で死ぬ。手当をして欲しいなら本当のことを話せ」
「話す。話す。本当だ……婁圭虎のことは知らねえ。名前は知っているが、俺たちとは関係ない。すでに日本に入っているとだけ聞いた。俺たちは……仲介屋を通じて依頼を受けただけだ」
「仲介屋の名前は?」
「シンだ。シン。本名は……知らねえ」
「シン? そいつはどんな奴だ。詳しく話せ」
「詳しくは知らねえんだ。大陸側との橋渡し役で、武器の密売や密入国なんかを仕切っているブローカーだ。会ったことはない」
「明日起こるテロに関しては何を知っている?」
「何も知らねえよ。シンから大きな仕事があるから人を集めておけと言われただけだ」
「テロの事はいつ知った」
「今日だ。お前たちを浚えって命令が入った時。お前たちがテロの情報を知っていて……俺たちはそれを引き出すように言われたんだ」
「情報を引き出した後、そのシンと言う男には連絡したのか?」
「ああ……した」
「奴は何と?」
男は一瞬ためらった後、隠しても無駄だと口を開いた。
「お前たち二人を……殺せと言われた」
「奴とは何で連絡を取っている」
「俺の携帯だ」
男はジャンパーのポケットを目で指した。
衛宮は携帯を取り出した。
「他に知っていることは?」
「もう、何もねえよ……全部話した」
男は銃を突きつける衛宮の目を見て、その中に宿ったものを読み取った。
そして、にやりと笑みを浮かべて続けた。
「いや……最後に一つ。シンは言ってたぜ――明日、東京がぐちゃぐちゃになるってな。人が住めなくなるような……ひどい有様になるってよ。ははっ」
男は胸の裡をぶちまけるかのように捲し立てた。
すでに自分の行く末を悟り、自暴自棄になって言い放った。
「お前たち日本人の多くが、明日死ぬ。お前だって、そう長くはねえ――」
男の声をかき消すように、銃声が鳴り響いた。
額を打ち抜かれた男は、この世の全てを呪うような悍ましい顔のまま絶命した。
衛宮はそんな男を無表情で見下ろしていた。
あと数秒の時が刻まれれば、日付が変わる。
そして、この国を揺るがす一日が訪れようとしていた。
深夜零時――
長い一日の幕が開けた。
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