マリーと魔法使いヨハン27話
027 星の巡りは、永遠
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マリーがヨハンのアジトに戻って来たころには――――西の空を濃紺の帳がおおい、半分かけた下弦の月が、ゆっくりと顔を覗かせていた。
マリーが浮かれ気分でアジトに戻ると、ヨハンが落ち着かなそうに部屋中をうろうろとしていた。
「マリー、いったいどこまで出掛けてたんだい? 心配したんだよ」
ヨハンは大袈裟に言ってマリーを心配した。
「少しお喋りをしていたら、遅くなっちゃった。はい、これ――――頼まれた洋服。それと美人の店員さんがよろしくって言ってたわ」
マリーは礼服の入った箱をヨハンに渡した。
そしてナターシャが言っていた言葉を思い出して、マリーは勝手に一人恥ずかしくなった。
「ふーん」
顔を微かに赤らめるマリーに、ヨハンは意味ありげにマリーを眺めた。
「なっ、何よ?」
「いや、マリーが外で、僕以外の男性と会話していると思うと悲しくて」
白々しいヨハンの物言いに、マリーは顔を顰 めた。
「そうね、アレクサンドリアの男性はみんな紳士的で素敵ね。あなたの何十倍も優しいわよ」
マリーは不敵に言い放ってみせる。
するとヨハンは顔色を変えた。
「マリー、町で男に声をかけらても、ほいほうついて行ったらダメだ。世の男たちは、みんな獲物を狙う飢えた狼みたないものなんだから」
「ちょっ、ちょっと、心配してくれるの嬉しいけど――――子供扱いしないでよね。それと、お喋りしてたの私と歳の近い女の子よ。そんなに心配しなくて大丈夫」
マリーはドロシーのことは詳しく話さず、適当に言ってヨハンをあしらった。
「なら、いいけど。本当に外には危険がたくさんあるんだよ」
ヨハンは振り返って、キッチンに向かうマリーの後ろを追うようについてきた。
「じゃあ、早く私の中の“聖杯”を取り出してよ。ここにいるほうが危険だと思うけど?」
マリーは後を追うヨハンをぴしゃりと言い放ったた。
そしてマリーは、何食わぬ顔で今日買ってきた食材をキッチンで広げた。ヨハンは痛い所をつかれたのか、それ以上何も言えにずにただ立ち尽くしたままで、その表情はとても心苦しそうだった。
「ロキ、もう少し待っててね? すぐに夕食をつくるから」
そんなヨハンとは対照的に、マリーはとても上機嫌で鼻歌を歌いながら夕食の準備に取り掛かった。
そしてその夜――――下弦の月が輝きを増しはじめた頃、ベッドの中で毛布に包まりながら、マリーは今日出会った素敵な友達のことを考えていた。
マリーは初めて年の近い友達に出会ったので、嬉しくてしかたがなかった。
最初は少し怖そうな印象のドロシーだったけれど、落ち着いて大人びているドロシーを、マリーはまるで、自分の姉のように感じていた。
「マリー、悩み事があるわね」
コーヒーを飲み終わると、突然、ドロシーがマリーに尋ねた。
ドロシーはマリーの手に、自分の冷たい手を重ねた。
「それも自分の手には終えないとても重要な事ね。そのことでマリーは深く悩んでる。でも、悩みはそれだけじゃないわね?」
ドロシーはマリーの心を見透かすように眺めた。
「どうして、そんなこと分かるの?」
マリーは動揺して言った。
マリーは聖杯のことを打ち明けようか、一瞬だけ迷い、頭を悩ませるが――――マリーはドロシーを巻き込んではいけないと、喉まで出かかった言葉を飲み込み、けっきょく聖杯のことを口にするのを止めた。
「私、占星術――――つまり占いが得意なのよ。それに、けっこう当たるのよ」
マリーはドロシーに何て答えればいいのか分からず、急に押し黙ってしまった。あまり隠し事が好きではないマリーは、友達に嘘をつくことを心苦しく感じていた。
それを見たドロシーは、マリーに優しく言った。
「マリー、私は、あなたの悩みを無理に聞きだそうだなんて思っていないわ。ただ、あなたが一人で悩んでしまっているのが悲しかっただけよ。でもね、マリー――――」
ドロシーはマリーを強い眼差しで見つめ、暖かい言葉を紡いでいく。
「決して現実から目を背けてはダメ。たとえ死神の鎌があなたの首を撫でようとも、決して目を瞑らないで。そして、あなたを守ってくれる人を信頼しなさい。たとえどんなに遠く離れても、あなたたちの絆は消えないわ。だから、疑ってはダメ――――貴方は全てを受け入れる杯 。最後まで、あなたの選んだ人を信じなさい」
優しく背中を撫でられるようなドロシーの言葉に、いつの間にかマリーはとても穏やかな気持ちになっていた。
そして帰り際――――扉の前で別れを惜しむマリーに、ドロシーは優しく微笑んで言った。
「今日はとても楽しかったわ。こんなに笑ったのも久しぶりよ」
「私も、本当に楽しかった。ねぇドロシー、また来てもいい?」
マリーは恥ずかしそうに俯いた。
「ええ、いいわよ。また出会えることが出来たなら――――今日みたいにお話ししましょうね」
マリーはドロシーの言葉の意味がよく分からず――――また出会えることが出来たならとは、どういう意味だろうと考えていた。
そんなマリーを見たドロシーは、マリーを気遣い、そして心配するように言葉をかけた。
「マリー、覚えておいて――――星の巡りは、永遠。全ての物事には理由があり、結末がある。今日の私の言葉を忘れてはダメよ」
その夜、マリーはドロシーの夢を見ていた。
マリーが浮かれ気分でアジトに戻ると、ヨハンが落ち着かなそうに部屋中をうろうろとしていた。
「マリー、いったいどこまで出掛けてたんだい? 心配したんだよ」
ヨハンは大袈裟に言ってマリーを心配した。
「少しお喋りをしていたら、遅くなっちゃった。はい、これ――――頼まれた洋服。それと美人の店員さんがよろしくって言ってたわ」
マリーは礼服の入った箱をヨハンに渡した。
そしてナターシャが言っていた言葉を思い出して、マリーは勝手に一人恥ずかしくなった。
「ふーん」
顔を微かに赤らめるマリーに、ヨハンは意味ありげにマリーを眺めた。
「なっ、何よ?」
「いや、マリーが外で、僕以外の男性と会話していると思うと悲しくて」
白々しいヨハンの物言いに、マリーは顔を
「そうね、アレクサンドリアの男性はみんな紳士的で素敵ね。あなたの何十倍も優しいわよ」
マリーは不敵に言い放ってみせる。
するとヨハンは顔色を変えた。
「マリー、町で男に声をかけらても、ほいほうついて行ったらダメだ。世の男たちは、みんな獲物を狙う飢えた狼みたないものなんだから」
「ちょっ、ちょっと、心配してくれるの嬉しいけど――――子供扱いしないでよね。それと、お喋りしてたの私と歳の近い女の子よ。そんなに心配しなくて大丈夫」
マリーはドロシーのことは詳しく話さず、適当に言ってヨハンをあしらった。
「なら、いいけど。本当に外には危険がたくさんあるんだよ」
ヨハンは振り返って、キッチンに向かうマリーの後ろを追うようについてきた。
「じゃあ、早く私の中の“聖杯”を取り出してよ。ここにいるほうが危険だと思うけど?」
マリーは後を追うヨハンをぴしゃりと言い放ったた。
そしてマリーは、何食わぬ顔で今日買ってきた食材をキッチンで広げた。ヨハンは痛い所をつかれたのか、それ以上何も言えにずにただ立ち尽くしたままで、その表情はとても心苦しそうだった。
「ロキ、もう少し待っててね? すぐに夕食をつくるから」
そんなヨハンとは対照的に、マリーはとても上機嫌で鼻歌を歌いながら夕食の準備に取り掛かった。
そしてその夜――――下弦の月が輝きを増しはじめた頃、ベッドの中で毛布に包まりながら、マリーは今日出会った素敵な友達のことを考えていた。
マリーは初めて年の近い友達に出会ったので、嬉しくてしかたがなかった。
最初は少し怖そうな印象のドロシーだったけれど、落ち着いて大人びているドロシーを、マリーはまるで、自分の姉のように感じていた。
「マリー、悩み事があるわね」
コーヒーを飲み終わると、突然、ドロシーがマリーに尋ねた。
ドロシーはマリーの手に、自分の冷たい手を重ねた。
「それも自分の手には終えないとても重要な事ね。そのことでマリーは深く悩んでる。でも、悩みはそれだけじゃないわね?」
ドロシーはマリーの心を見透かすように眺めた。
「どうして、そんなこと分かるの?」
マリーは動揺して言った。
マリーは聖杯のことを打ち明けようか、一瞬だけ迷い、頭を悩ませるが――――マリーはドロシーを巻き込んではいけないと、喉まで出かかった言葉を飲み込み、けっきょく聖杯のことを口にするのを止めた。
「私、占星術――――つまり占いが得意なのよ。それに、けっこう当たるのよ」
マリーはドロシーに何て答えればいいのか分からず、急に押し黙ってしまった。あまり隠し事が好きではないマリーは、友達に嘘をつくことを心苦しく感じていた。
それを見たドロシーは、マリーに優しく言った。
「マリー、私は、あなたの悩みを無理に聞きだそうだなんて思っていないわ。ただ、あなたが一人で悩んでしまっているのが悲しかっただけよ。でもね、マリー――――」
ドロシーはマリーを強い眼差しで見つめ、暖かい言葉を紡いでいく。
「決して現実から目を背けてはダメ。たとえ死神の鎌があなたの首を撫でようとも、決して目を瞑らないで。そして、あなたを守ってくれる人を信頼しなさい。たとえどんなに遠く離れても、あなたたちの絆は消えないわ。だから、疑ってはダメ――――貴方は全てを受け入れる
優しく背中を撫でられるようなドロシーの言葉に、いつの間にかマリーはとても穏やかな気持ちになっていた。
そして帰り際――――扉の前で別れを惜しむマリーに、ドロシーは優しく微笑んで言った。
「今日はとても楽しかったわ。こんなに笑ったのも久しぶりよ」
「私も、本当に楽しかった。ねぇドロシー、また来てもいい?」
マリーは恥ずかしそうに俯いた。
「ええ、いいわよ。また出会えることが出来たなら――――今日みたいにお話ししましょうね」
マリーはドロシーの言葉の意味がよく分からず――――また出会えることが出来たならとは、どういう意味だろうと考えていた。
そんなマリーを見たドロシーは、マリーを気遣い、そして心配するように言葉をかけた。
「マリー、覚えておいて――――星の巡りは、永遠。全ての物事には理由があり、結末がある。今日の私の言葉を忘れてはダメよ」
その夜、マリーはドロシーの夢を見ていた。
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こちらの物語は、『小説家になろう』に投稿していたものをブログに掲載し直したものです。『小説家になろう』では最終回まで投稿しているので、気になったかたはそちらでもお読みいただけると嬉しいです。