マリーと魔法使いヨハン75話
075 魔法と剣技
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「これが、テンプルナイトの重圧と実力――――“獅子の戦”を潜り抜けた者たちの力か」
ヨハンは心の中で呟いた。
そしてヨハンは感じていた――――明らかに違いすぎる実戦の経験、修羅場を潜り抜けた数、そして命を賭けたやり取りの重み。
今まで感じた事も無い重圧がヨハンを襲い、体を硬直させていた。そして、そんなヨハンの焦りや恐怖を見透かしたように、ガラハッドは次の手を打つ。
「さて、流石はヘイムデイルを打ちましただけはある――――いい身のこなしだ」
ガラハッドは剣を顔の前に翳した。
「だが、しかし――――ヘイムデイルと同じ手を僕が食うとでも?」
ヨハンは、忌々しく舌打った。
その言葉の先にある、ヨハンとガラハッドが見つめた視線の交錯する場所には、ヨハンが宙を舞う際につけた小さな“魔法陣”と“ルーン文字”が、緑の墨で書かれていた。
「あの一瞬で、なかなか見事な腕前だが――――実戦には不向きだ」
「さすがに、同じ轍 は踏まないか? 何、少し君を試しただけさ――――」
ヨハンは何事も無いように、さらりと言ってのけた。
「そうか、なら安心した――――次はこちらの番だな」
ガラハッドはそう告げると足を大きく広げ、翳した剣に力を込めた。
剣は次第に光を帯び――――光は剣を縁取った。
ガラハッドは光を帯びた剣を腰元まで引きながら――――
「はぁああ」
唸るように声を発し、そしてガラハッドが一気に剣を振るうと、剣を縁取った光は斬撃となり――――斬撃はヨハン目掛けて、一直線に向かって行きった。
飛ぶ光の斬撃がヨハンを襲い、ヨハンはそれを宙に飛び上がって躱し、直撃を目逃れる。
しかし宙に浮いたヨハンを、斬撃と共に自らも空中に飛んでいたガラハッドが迎え撃ち、ヨハン目掛けて、一閃――――再び剣を振り下ろした。
「――――くっ」
宙では思うように身動きが出来ないヨハンは、仕方なくその斬撃を笛の腹で受ける。しかし、その凄まじい剣圧に耐えられないヨハンは、そのまま後方の壁まで勢いよく弾き飛ばされた。
九時の橋の出入り口はガラハッドの飛ぶ斬撃で崩れ落ち、瓦礫の山が出入り口を塞いでいた。ヨハンはその瓦礫の山に背中から直撃し、衝撃で崩れた瓦礫がヨハンの頭上に落ちた。
ヨハンは衝撃で一瞬意識が遠のき、くらくらする頭を手で摩りながら、意識を無理やり現実に引き戻した。ぼやけた視界が四つから一つに戻るにつれ、ヨハンは憂鬱そうに目の前の現実を受け入れた。
目の前には白いローブと茶皮のブーツ、そしてヨハンの首元には――――鋭く研がれた白銀の剣の切っ先が、ヨハンの喉元に突きつけられていた。
「さて、ここで君の命を奪うのは容易いが“聖杯の乙女”との約束もある。君をこのまま連れて行こう――――」
ガラハッドは剣の切っ先に力を込めて言った。
チクリと針に刺されたような刺激を感じたヨハンの首からは、赤い血が一筋、ゆっくりと垂れていた。
「変な気は起こしてくれるな。僕も君を殺すことになるのは本意じゃない」
その言葉にヨハンはがっくりと項垂れ、そしてため息をつきました。
「さぁ、立ちたまえ――――」
「残念だよ」
「ああ、残念だ。アレクサンドリアの魔法使いヨハン」
「いや、残念の意味が違う――――」
剣を突きつけられたヨハンが、口の端を吊り上げて笑みを浮かべると――――
刹那、ヨハンは目を瞑った。
そして魔力に力を込め、短い単語を唱えた。
それを見たガラハッドは、顔を顰めて剣に力を込めた。
目の前の少年の命を奪うことにまるで躊躇いは無かった。
しかしガラッドの剣よりも早く、ヨハンの羽織っている黒いマントが動き出した。
黒いマントは意思を持ったかのように食指を伸ばし、マントの裾はガラハッドの剣に巻きつく。そして突きつけられた剣がヨハンの喉に突き刺さる寸前でその動きを止め、ヨハンが命を落とすのを阻止した。そしてヨハンのマントは、そのまま傘を開いたのように裾を広げ、地に根を張るように地に自らの尖った裾を突き立てて、ヨハンを勢いよく宙へと持ち上げた。
まるで蝙蝠の羽のように広がったマントと共にヨハンは宙へと浮かび、ガラハッドの頭上を越して、再び中央の広いスペースにふわりと降り立った。
しまったと振り返り、顔を顰めるガラハッドに、ヨハンは無邪気な表情で言葉を投げかけた。
「残念と言ったのは、君の覚悟にさ。君がその気なら僕の命を奪えていた。だが、君には僕の命を奪う覚悟が足りなかったようだね――――それはマリーの言葉のおかげかな?」
ガラハッドはため息を吐いた。
「さて、初めに戻っただけだ。また君の首元に剣を突き刺せばいい話――――何も問題は無い」
「確かに、何の問題も無い。だが、君は魔法使いと言うものを分かっていないね」
ヨハンは翡翠の瞳を妖しく輝かせた。
「“キャメロット”の“テンプルナイト”――――ガラハッド。魔法使いとは、この世でもっとも狡猾で冷酷なもの、僕ら相手に次はない」
自信の程を浮かべるヨハンに、ガラハッドは忌々しそうに言った。
「では、見せてもらおうか――――」
そう告げて再び剣を振りぬくと、またしても光の斬撃がヨハンを襲った。
しかし今回は、一撃だけでなく立て続けに三筋――――光の斬撃がヨハンを襲う。
魔法使いと騎士――――
二人の戦闘は最終章に向かった。
ヨハンは心の中で呟いた。
そしてヨハンは感じていた――――明らかに違いすぎる実戦の経験、修羅場を潜り抜けた数、そして命を賭けたやり取りの重み。
今まで感じた事も無い重圧がヨハンを襲い、体を硬直させていた。そして、そんなヨハンの焦りや恐怖を見透かしたように、ガラハッドは次の手を打つ。
「さて、流石はヘイムデイルを打ちましただけはある――――いい身のこなしだ」
ガラハッドは剣を顔の前に翳した。
「だが、しかし――――ヘイムデイルと同じ手を僕が食うとでも?」
ヨハンは、忌々しく舌打った。
その言葉の先にある、ヨハンとガラハッドが見つめた視線の交錯する場所には、ヨハンが宙を舞う際につけた小さな“魔法陣”と“ルーン文字”が、緑の墨で書かれていた。
「あの一瞬で、なかなか見事な腕前だが――――実戦には不向きだ」
「さすがに、同じ
ヨハンは何事も無いように、さらりと言ってのけた。
「そうか、なら安心した――――次はこちらの番だな」
ガラハッドはそう告げると足を大きく広げ、翳した剣に力を込めた。
剣は次第に光を帯び――――光は剣を縁取った。
ガラハッドは光を帯びた剣を腰元まで引きながら――――
「はぁああ」
唸るように声を発し、そしてガラハッドが一気に剣を振るうと、剣を縁取った光は斬撃となり――――斬撃はヨハン目掛けて、一直線に向かって行きった。
飛ぶ光の斬撃がヨハンを襲い、ヨハンはそれを宙に飛び上がって躱し、直撃を目逃れる。
しかし宙に浮いたヨハンを、斬撃と共に自らも空中に飛んでいたガラハッドが迎え撃ち、ヨハン目掛けて、一閃――――再び剣を振り下ろした。
「――――くっ」
宙では思うように身動きが出来ないヨハンは、仕方なくその斬撃を笛の腹で受ける。しかし、その凄まじい剣圧に耐えられないヨハンは、そのまま後方の壁まで勢いよく弾き飛ばされた。
九時の橋の出入り口はガラハッドの飛ぶ斬撃で崩れ落ち、瓦礫の山が出入り口を塞いでいた。ヨハンはその瓦礫の山に背中から直撃し、衝撃で崩れた瓦礫がヨハンの頭上に落ちた。
ヨハンは衝撃で一瞬意識が遠のき、くらくらする頭を手で摩りながら、意識を無理やり現実に引き戻した。ぼやけた視界が四つから一つに戻るにつれ、ヨハンは憂鬱そうに目の前の現実を受け入れた。
目の前には白いローブと茶皮のブーツ、そしてヨハンの首元には――――鋭く研がれた白銀の剣の切っ先が、ヨハンの喉元に突きつけられていた。
「さて、ここで君の命を奪うのは容易いが“聖杯の乙女”との約束もある。君をこのまま連れて行こう――――」
ガラハッドは剣の切っ先に力を込めて言った。
チクリと針に刺されたような刺激を感じたヨハンの首からは、赤い血が一筋、ゆっくりと垂れていた。
「変な気は起こしてくれるな。僕も君を殺すことになるのは本意じゃない」
その言葉にヨハンはがっくりと項垂れ、そしてため息をつきました。
「さぁ、立ちたまえ――――」
「残念だよ」
「ああ、残念だ。アレクサンドリアの魔法使いヨハン」
「いや、残念の意味が違う――――」
剣を突きつけられたヨハンが、口の端を吊り上げて笑みを浮かべると――――
刹那、ヨハンは目を瞑った。
そして魔力に力を込め、短い単語を唱えた。
それを見たガラハッドは、顔を顰めて剣に力を込めた。
目の前の少年の命を奪うことにまるで躊躇いは無かった。
しかしガラッドの剣よりも早く、ヨハンの羽織っている黒いマントが動き出した。
黒いマントは意思を持ったかのように食指を伸ばし、マントの裾はガラハッドの剣に巻きつく。そして突きつけられた剣がヨハンの喉に突き刺さる寸前でその動きを止め、ヨハンが命を落とすのを阻止した。そしてヨハンのマントは、そのまま傘を開いたのように裾を広げ、地に根を張るように地に自らの尖った裾を突き立てて、ヨハンを勢いよく宙へと持ち上げた。
まるで蝙蝠の羽のように広がったマントと共にヨハンは宙へと浮かび、ガラハッドの頭上を越して、再び中央の広いスペースにふわりと降り立った。
しまったと振り返り、顔を顰めるガラハッドに、ヨハンは無邪気な表情で言葉を投げかけた。
「残念と言ったのは、君の覚悟にさ。君がその気なら僕の命を奪えていた。だが、君には僕の命を奪う覚悟が足りなかったようだね――――それはマリーの言葉のおかげかな?」
ガラハッドはため息を吐いた。
「さて、初めに戻っただけだ。また君の首元に剣を突き刺せばいい話――――何も問題は無い」
「確かに、何の問題も無い。だが、君は魔法使いと言うものを分かっていないね」
ヨハンは翡翠の瞳を妖しく輝かせた。
「“キャメロット”の“テンプルナイト”――――ガラハッド。魔法使いとは、この世でもっとも狡猾で冷酷なもの、僕ら相手に次はない」
自信の程を浮かべるヨハンに、ガラハッドは忌々しそうに言った。
「では、見せてもらおうか――――」
そう告げて再び剣を振りぬくと、またしても光の斬撃がヨハンを襲った。
しかし今回は、一撃だけでなく立て続けに三筋――――光の斬撃がヨハンを襲う。
魔法使いと騎士――――
二人の戦闘は最終章に向かった。
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こちらの物語は、『小説家になろう』に投稿していたものをブログに掲載し直したものです。『小説家になろう』では最終回まで投稿しているので、気になったかたはそちらでもお読みいただけると嬉しいです。