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仕事をやめるたった一つのやり方~56話

仕事をやめるたった一つのやり方 小説

第56話 辿りついた

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kakuhaji.hateblo.jp

 第1話はこちらから読めます ↑

 

「それで、どういう手筈で行くわけ?」

 

 衛宮蔵人と響直海は、彼女が乗ってきたバンのハンガーから武装を取り出し、一つ一つの武器を点検しながら装備を整えていった。特殊繊維の防弾ジャケットを纏い、マガジンホルダーにマガジンを詰め込んでいく。そのマガジンも一つずつ点検をすることを忘れなかった。

 

 衛宮は二丁の拳銃をホルスターに入れ、一丁の散弾銃をストラップで背に回した。コンバットナイフと閃光弾を装備ベルトに収納して武装を整えた。

 

 響はアサルトライフルと拳銃を一丁ずつ、縦に長いマガジンベルトを装備して武装を整えた。

 

 二人は耳に戦略捜査室専用の双方向通信機を装着し、互いに「テスト――1,2」と言って感度を確認し合った。

 

「基本的には僕が先行して敵を殲滅していく。隠密行動を心がけて、敵を一人ずつダウンさせる。響は僕の援護とイチローの保護を任せる」

 

 その言葉に、響と一郎の二人が一斉に顔色を変えた。

 

「ちょっと待って……そこの青瓢箪を現場に連れて行くつもり? 冗談じゃないわ」

「待ってくれ衛宮……俺が敵のアジトに侵入するなんて聞いてないぞ? 無理だ。そんなの命が幾あっても足りないじゃないか?」

 

 二人は一斉に衛宮に食って掛かった。

 声が重なったことで、響は忌々しそうに舌打ちをした。

 

「いいか、良く聞け? 現在、婁圭虎は乗っ取った無人機を完全に掌握していて、その無人機をで国内のどこかに攻撃を行おうとしているはずだ。僕たちの作戦が成功してテロリストのアジトを制圧した後、速やかに無人機のコントロールを奪う必要がある。その為には、イチローの手助けが不可欠だ」

「そんなことが、この青瓢箪にできるわけないでしょう? この男はただの素人なのよ」

「ナオミ、一郎は必要な戦力だ。その実力と能力は僕が保証する」

「いいえ。アジトを制圧した後、うちの分析官に回して無人機を制圧したほうが確実よ」

「いや、現在、無人機に関する全ての情報を理解しているのは、イチローだけだ。それに戦略捜査室に現場の情報を送信していたら時間の無駄になる。ハッキングに関しては戦略捜査室の分析官よりもイチローのほうが何枚も上手だ。現場でやった方が早い」

「だけど――」

「僕の作戦に異論があるなら無理にこの作戦に加わらなくていい」

 

 衛宮は響に理解を求めるように言って黙らせた。

 これ以上の議論の必要はなく、この現場での指揮官は自分であると分らせるには十分な言葉だった。

 

 現場の論理を持ち出されては、これ以上の反論などあるはずもなかった。

 現場では上官の命令が絶対である。

 それを破っては、どんなに優れた部隊であろうとも作戦を遂行することは叶わない。

 部隊行動に置いて必要なのは優れた個人などではなく、統制や連携のとれた集団であった。

 

 響はそれ以上何も言わず、舌打ちをした後、忌々しげに一郎を睨みつけた。

 

「一郎、頼む。お前だけが頼りだ。僕たちがアジトを制圧した後、無人機のコントロールを奪い返してくれ」

 

 衛宮に頼まれた一郎は、このとんでもない状況を前に「どうしたらいいのか?」と悩んだ。

 

 これから自分はテロリストのアジトに侵入する。

 そこは間違いなく過酷な戦場になるだろう。

 死者が多数出る。

 もしかしたら、衛宮やこの響という捜査官が倒れることがあるかもしれない。

 それに何より自分自身が。

 

 一郎は圧倒的な恐怖で身が竦みそうになりながらも、衛宮の目を真っ直ぐに見て頷いた。

 

「……分った。できる限りのことはやる。お前たちと一緒に俺も現場に出るよ」

「ありがとう」

 

 衛宮はその言葉に感謝の言葉を述べ、そっと拳を差し出した。

 差し出された拳を見た一郎は直ぐにその意味を理解し、自分も握った拳を前に突き出した。

 二人は拳を合わせ、この作戦の成功を誓い合った。

 

「よし、一郎、お前も通信機をつけろ。耳たぶの裏に張り付けるだけでいい」

「わかった」

 

 一郎は衛宮から受け取って薄いシールのような通信機を耳たぶの裏に張り付けた。

 

「喋ってみろ」

「あーあー」

「よし、感度は良好だな」

 

 衛宮は頷いた後、今度は一郎の装備を整え始めた。

 防弾ジャケットを装着してやり、現場の動き方、銃弾の躱し方などを簡単にレクチャーした。

 

 レクチャーとは言っても、とにかく頭を下げて体を小さくし、頭だけを守れという簡単なものだった。銃弾を受けてもパニックにならず、冷静に撃たれ箇所を確認し、弾が貫通していれば問題ないと教えられた時、一郎はその場で失神しそうになっていた。

 

「後はイチロー、これを持て」

「これって……?」

 

 そう言って渡されたのは拳銃だった。

 

「こんなの俺には使えないぞ。無理だ……人を撃てるわけない」

 

 一郎は手渡された拳銃の重みに震えた。

 その黒く冷たい人を殺すための武器は、一郎の目にはまるで息を潜めた黒い獣のように映った。

 

「護身用だ。何も持たないよりはマシだろ? 狙って打つだけでいい」

 

 衛宮は適当に銃の扱いを教え、一郎のズボンのベルトに銃をさしこませた。

 一郎はこれを使う機会が永遠に訪れないことを願いながら、衛宮の作戦を頭に叩き込んだ。

 

 三人はコンテナ埠頭の九区画へと移動し、コンテナ群の奥にある九区画を管理する詰所に近づいた。

 

 詰所とは言ってもコンクリートの大きな建物で、事前に一郎が建設会社から詰所の設計図をハッキングかぎりでは、地上二階建、地下一階建ての建物であることが分っていた。

 

 衛宮はコンテナとコンテナの間から顔を出して状況を確認し、見張りをしているテロリストを一人発見した。そして別の場所には見張り台があり、見張り台の上にもテロリストが一人立っていた。

 

 見張りを行っている二人の男は武装をしており、その物腰や所作から間違いなく訓練を受けた兵士であると判明した。

 

「ナオミ、僕が合図をしたら、サイレンサーをつけたライフルで見張り台の兵士を狙撃しろ。僕は巡回をしている見張りをやる――気づかれるなよ?」

「ええ。分ったわ」

 

 響は頷いた。

 

「それとナオミ、テロリストを確保しようなんて考えるな。奴らは全員死を覚悟した兵士だ。日本の警察や戦略捜査室の理論は通じない。戦場では常に殺すか殺されるかだ。迷うことなく銃弾を叩きこんで確実に殺せ」

「ええ、分っているわ。あなたの理論でやるわ」

 

 響は冷ややかにそう言うと、コンテナ脇の梯子を上って狙撃位置へと向かって行った。

 

イチロー、お前はついて来い」

 

 一郎は言われるままに衛宮について言った。

 

 衛宮はコンテナの影から巡回をしている見張りの動向を探り、移動の予測を立てた。そして、もう一人の見張りに見つからないようにしながら、巡回をしている見張りの背後に移動した。

 

 衛宮と見張りは、ニアミスまでほんの数秒の距離にいた。

 衛宮はコンバットナイフを取り出し、そして響に連絡を入れた。

 

「――ナオミ、撃て」

 

 その瞬間、見張り台のテロリストは眉間と心臓を打ち抜かれて死亡した。

 そして衛宮が背後から近づいたテロリストも、その首元にナイフを深々と突き刺されて絶命した。

 

 テロリストを殺害して地面の転がすと、衛宮は直ぐにテロリストから無線機を奪った。

 

「――ポイント2、状況を報告せよ」

 

 すると、直ぐに無線機に連絡が入った。

 衛宮は無線機の通話口にナイフを突き刺し、電波が混成して通信が乱れているように見せかけると、自分も口を開いた。

 

「ポイント2異常なし」

「ポイント1から応答がないが?」

「現在通信が乱れています。自分が目視でポイント1の姿を確認していますが問題はありません」

「了解。ポイント2、引き続き警戒を怠るな」

「ポイント2了解」

 

 衛宮は通信を終えると、その声の主に標的を定めたように視線を厳しくした。

 

 その声の主が今回のテロ攻撃の首謀者であり、テロリストの首魁――

 

 そして蛟竜のリーダー、婁圭虎であると本能的に理解していた。

 

 衛宮は――ようやく辿りついたと確信した。

 そして、静かに敵の名前を呼んだ。

 

「――婁圭虎」

 

 

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