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青い春をかける少女~26話

26 ハチミツ色の

 

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「そっか……ハルはカエデとは付き合わないんだ」

 

 私の話を聞き終わったハニーはほっとしたような、ことさら傷ついたような複雑な顔をしていた。

 今私から聞いた話の内容を、自分の胸の中のどこにしまえばいいのか分からない、そんな表情をしていた。

 

「うん。私は一之瀬君とは付き合わない」

「私、もしかしたらカエデの恋の邪魔をしちゃったかな?」

「えっ?」

「だってさ……もしも、あの時にだよ、あの告白の場所に私が偶然に合わせなかったら、私がカエデのことが好きなのかもしれないってハルが気づいてなかったら、ハルとカエデは付き合って上手くいってたかもしれないじゃん? 私がカエデの恋の邪魔をしちゃったのかもしれないって考えたら……私カエデに合わせる顔がないよ」

 

 私たちは並んで土手の上に腰を下ろしていた。

 沈んで行く太陽を前にしていた。

 ハニーは涙声で抱えた膝の上に顔を埋めた。

 

「私はあの時ハニーが現れなくても、ハニーが一之瀬君のことを好きなんだって気づいてなくても、一之瀬君とはお付き合いしてなかったよ」

 

 私はハニーのために小さな嘘を吐いた。

 もしかしたら、そんな未来もあったかもしれない、そう思ってしまう自分のことを否定できなかった。あの場所にハニーが現れなかったら、一之瀬君がもう少しゆっくりと私との仲を縮めようとしてくれていたら、あとほんの少しだけ星の巡りがよかったら、私は一之瀬君のことを好きになって、お付き合いをしていたかもしれない。

 

 もしかしたら、それは素敵な日々になったかもしれない。

 でも、そうはならかった。

 だから、それだけが私たちの本当。

 

 私は、そう思うことにした。

 それに誰かのことを思ったまま別の誰か思うなんて器用な真似が、私にできるとも思えなかった。

 

「そっか、どのみちハルはカエデとは付き合わなかったんだ。はぁ、まさか告白もせずに振られるなんて思わなかったなー」

「告白すればいいじゃん」

「ハル、自分が私の好きな人に告白されたってこと分かってる?」

「分かってるよ。でも、だからってハニーが一之瀬君に告白しちゃいけないって事にはならないと思うけど」

「そうだけどさー。あー、もー、わかんない」

 

 ハニーは頭を抱えて呻くように言った。

 

「分からなくていいんだと思うよ」

「何それ?」

「答えを見つける必要なんてないんだよ。大切なことは答えや解決策を見つけようとすることじゃなくて、前に進むことだよ……きっと」

「それ誰かの受け売りでしょ?」

「うっ……ハルキさんです」

 

 私は図星をつかれて恥ずかしくなった。

 

「だと思った」

 

 ハニーは目を細めて呆れたように言った。

 

「はぁ、ハルはすごいよ」

「すごいって……何が?」

「そんな他人の言葉を真に受けて、他人の受け売りを直ぐに信じて行動できちゃうんだからさ。どうせ、その言葉をおじいさんに聞かされて、勇気づけられて私のところに来たんでしょ」

「すごいハニー。ぜんぶ正解。まるで私の心が読めるみたい」

 

 私は素直に驚いて言った。

 ハニーは私のことなら何でもお見通しなんだな、そう思うと嬉しかった。

 

「私さ、ずっと私から謝らなくちゃっダメだって思ってたんだ。私が悪いんだから……私から謝るのが筋なんだって思ってた」

 

 ハニーは自虐的に笑って続けた。

 

「それに、たぶんハルは塞ぎ込んで部屋の中でメソメソ泣いてるだろうなって思ってたから……早く私から謝らなくちゃってずっと思ってたんだよ」

 

 それも正解だった。

 

「だから、私から一歩踏み出してハルに謝らなくちゃって思ったてたんだけど、できなかった。何度も電話しようって、メールを打とうって思ってたのにできなかった。でもハルは一歩踏みだした。私に会いに来てくれた。ほんとすごいよ」

「そんなことないよ」

「そんなことあるんだって」

「ううん、ほんとにそんなことない。私だってどうしたらいいんだろうってずっと悩んでたよ。でも背中を押してくれる人がいた。だからここに来れた。それに、私はハニーと友達のままでいたかったから」

「私だってそうだよ。ハルと友達でいたいって思ってたよ」

「ハニー」

 

 私たちは感動で顔を見合わせ、互いに恥ずかしくなって遠くの空を眺めた。

 また一つ、素敵な思い出がふえたような気がしていた。

 最後に、私は気になっていたことを尋ねることにした。

 それを尋ねることは本当に怖かった。

 

「ねぇハニー、あのね……私これからも、ハニーのこと……ハニーって呼んでもいい? もしも不愉快だって思ってたら、私――」

「バカッ」

 

 ハニーは最後まで言わせずに、私の口を塞ぐように抱きしめた。

 

「バカ、バカ、バカ。でも、ほんとにバカなのは私だ――」

 

 ハニーはまた泣いていた。

 

「あんなひどいこと言ってゴメン」

 

 私を抱きしめる両腕は、まるで何かにすがりつくみたいだった。

 赤ちゃんみたいだなって思った。

 

「あんなの全部ウソだから。ウソに決まっているよ。私、ハルにハニーって呼ばれるのが大好きなの。最高に気に入ってる。だから、これからもいつも通りハニーって呼んでよ」

「うん。ありあがとう。ハニー」

 

 蜂蜜色の涙がこぼれた。



 私たちの心の中に。

 

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