男の質問は続いていた。
一郎は何度も同じことを答えた。
同じことを何度も何度も繰り返した。
時折、一郎の体にナイフを突きつけ――「本当か?」「嘘じゃないな?」「もしも嘘をついていたら……」と、質問を繰り返した。
一郎はその度に泣き叫びながら同じ答えを繰り返した。男に頬を切られた時、一郎は衛宮と知り合いであることを喋ってしまおうかと考えたが、それだけは何とか踏みとどまった。
「本当だ。全部話した。テロの話を聞いたのは……本当に偶然だったんだ。嘘は一つもついていない。あいつのことは……何も知らないんだ。信じてくれ。僕は脅されていただけなんだ」
「いいだろう。お前の言っていることは分った。相棒の方はどうだろうな? 様子を見るとしようか」
男は一郎を歩かせた。
「さぁ、今度はここに座れ」
一郎は言葉を失って絶句していた。
変わり果てた衛宮の姿があった。
衛宮は、縛れらた手を天井から降りたクレーンで釣られていた。そして上半身を剥き出しにされ、全身から血を流していた。皮膚は青黒い痣が幾つもできており、手酷い拷問を受けた後だという事は一目瞭然だった。宙に浮いた足元には血溜りができていた。
まるで食肉工場の冷凍肉のようだった。
身長は一郎よりも低く、小柄で痩身に見えた衛宮だったが、その肉体は鍛え上げられたアスリートのようで、分厚い筋肉の鎧を身に纏っていた。スーツの上からでは分らなかったが、彼が日常的にハードなトレーニングをしていることは一目瞭然だった。
そんな彼の見事な肉体は今、見るも無残な姿へと変えられていた。
一郎はあまりの残酷さと恐ろしさに言葉を失い、ガタガタと歯を震わせてその無残な姿から目を背けた。
「何か喋ったか?」
男が尋ねると、大きなシャベルを持った男が首を横に振った。
「何も。タフな男で、まだ一言も喋ってません」
「悲鳴も懇願もなしか?」
「はい。こんな感じです――」
そう言いながら、男は両手に持ったシャベルを衛宮の腹に突き立てた。
「がはっ」
衛宮は瞳を剥き出しにして口から血を吐き出した。しかし悲鳴はおろか、呻き声すら上げなかった。痛みで苦しみながらも、必死にそれに耐えていた。
「痛みに耐える特殊な訓練を受けてやがるな。ここまで耐えられる奴は、そうそういるもんじゃねー」
オールバックの男が感心したように言った。
「だが、最後には全部話す。殺さずに痛めつける方法はいくらでもあるんだ。おい、持って来い」
ドスの利いた声で命令を下すと、周りにいた男たちはどこからか持ってきたそれを、衛宮の前に並べ始めた。
まるでこれから始めることを見せびらかすように、パーティ道具をひけらかすかのように――机の上には物々しく悍ましい器具がずらり並んだ。ナイフ、メス、ノコギリ、ハンマー、ハサミ、そして巨大なドリルまで。
一郎はそれを見ているだけで失神してしまいそうだった。
「まずは、これからいこう。お前は何者だ? どうやってテロのことを嗅ぎ付つけた?」
男は手も持ったメスを衛宮の脇腹に突き刺すと、顔を近づけて静かに尋ねた。
赤い血がこぼれ、下半身を伝って足元の血だまりへと落ちていく。
「ぐうう」
衛宮は顔を歪めながら声を漏らした。
「ちゃんと痛みを感じてるじゃねーか。もっとお前の声を聴かせてくれよ?」
男は突き刺したメスを脇腹の中で抉るように、上下左右に動かし始めた。
「ぐああ」
「痛いだろう? もっと痛くなるぞ。さぁ、話しちまえ」
「ぺっ」
衛宮は口の中に溜まった血を男に吐きかけた。
「クソ野郎がっ」
男は逆上して衛宮の腹をおもいきり殴った。
「ごほっ」
「いいか、楽に死ねると思うなよ? 死ぬよりも苦しい目に合わせてやる。そして最後には――殺してくださいって懇願させてやるからな?」
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