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仕事をやめるたった一つのやり方~19話

第19話 お前が生き残るためだ

本日の『カクヨム』ミステリーランキング43位でした。

今日もありがとうございます!!

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kakuhaji.hateblo.jp

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 川崎市横浜市に跨るベイエリア。

 

 埠頭、会社、工場、事務所、倉庫群、コンテナヤード、船舶など――身を隠すには打ってつけの一画であり、犯罪の温床になりやすり危険な地域だった。

 

 ベイエリアの工場地帯。

 

 海外のペーパー・カンパニーによって購入され、表向きは工場の倉庫として登録されている建物の中では――運び込まれた二人の男が後ろ手に縛られて放置されていた。

 

 目を覚ました一郎は、全身を襲う痛みに身悶えた。上手く息ができず、空気を吸い込むたびに全身が悲鳴を上げた。

 

「――がはっ」

 

 一郎の目の前には薄暗い空間が広がっていた。

 冷たいコンクリートに横たわり、手と足を縛られていることしか分らなかった。

 

 一郎は、「一体、何が起きているんだ?」と混乱した。そして、全身がひび割れているように痛む体を大きく動かし、拘束から逃れようともがいた。

 

イチロー、暴れるな。後、大きな声を出すな」

 

 後頭部の辺りから声が聞こえ、一郎はゆっくりと体を動かして反対側を向いた。

 そこには、一郎と同様に地面に横たわっている衛宮の姿があった。彼も両手と両足を縛らていた。

 

 一郎は衛宮の顔を見た瞬間、これまでのことを全て思い出した。

 

「ようやく目が覚めたみたいだな?」

 

 衛宮は何事でもないような調子で尋ねたが、額からは出血をしており、口元も赤黒く染まっていた。

 

「体の調子はどうだ? 痛むか?」

「体中が鞭に打たれたみたいに痛い……後、息をするとひどく痛む」

「恐らく骨にひびが入ったんだろう? 見たところ重症じゃなさそうだし、あっても打撲ぐらいだから安心しろ」

「俺たち……どうなったんだ? これから……どうなるんだ?」

「犯人グループに捕まった。そして、これから口を割らされる」

「なっ、何か手があるんだろう? 俺たち、無事にここを逃げ出せるんだよな? なぁ……衛宮?」

 

 一郎は事態の深刻さを知り、今にも泣きそうな声で尋ねた。

 

「無事に……とはいかないだろうな」

 

 衛宮も深刻な表情を浮かべて苦い顔をした。

 

「いいか、イチロー? 今から僕の言う事を必ず守るんだ。何が起きてもだ」

「分った。俺はどうすればいい?」

 

 一郎は縋るように尋ねた。

 

「お前は、知っていることを全て正直に話せ」

「ぜんぶ……話す?」

「ああ。鳩原と鵜飼のことも、テロに関してのことも、知っている情報全てだ。ただ一つ、僕の事だけは何も知らないと言え。僕たちは友人でもないし、知り合いでもない。今日初めて知り合ったと言うんだ」

「何でそんなこと?」

「お前が生き残るためだ。お前は僕に拘束され、脅されていたと言うんだ。そして――」

 

 その瞬間、コンクリートの地面に足音が響いた。

 

 衛宮は視線で静かにしろと合図した。

 その後で目を閉じて静かになり、一郎もそれに倣った。

 

 足音が直ぐ近くまで来たのが分かると、一郎はどうしようもない程怖くなり、体を凍えたようにぶるぶると震わせた。

 

 次の瞬間、二人に勢いよく冷たい水が浴びせかけられた。

 

「おい、起きろ」

 

 一郎は何者かに髪の毛を引っ張られて顔を持ち上げられ、強く頬を叩かれた。

 

「――ひっ」

 

 一郎が恐る恐る目を開けると―――目つきの悪いオールバックの男の顔があった。男の周りにはさらに五人の男が立っており、全員が荒んだ人相と屈強な体つきをしていた。そして、武器を携帯していた。

 

「お前は、こっちに来い」

「やめてくれ。乱暴はしないでくれ」

「うるさい。今直ぐ殺されたいか?」

 

 男は一郎の足枷を外すと、一郎を立たせて引っ張って行った。

 

 一郎の背中では「お前はこっちだ」と声が聞こえ、衛宮が別のどこかに連れて行かれようとしていた。

 

 一郎は不自然に置かれた椅子に座らされ、そこで手の拘束も外された。

 

 遠くの方ではガチャガチャと何かがぶつかり合う金属音が響き、その不気味な音に一郎の恐怖は際限なく膨らみ続けた。

 

 今にも破裂しそうなくらいに。

 

 先ほどした衛宮との会話が無ければ、一郎は今直ぐにでも発狂して泣き出していたかもしれない。

 

「いいか、良く聞け?」

 

 目つきの悪い男が顔を近づけ、静かな声で脅すように言った。鼻をつまみたくなるような臭いが男の口元から漂い、剥き出しになった黄ばんだ歯は所々が欠けていた。

 

「お前はマトリクス社の社員だな?」

「そっ、そうだ」

「お前が今日、とある情報を知ってしまったのは分っている。今から聞かれたことに、全て正直に答えろ。さもなければ――」

 

 男は手に持っていたナイフを一郎の目に翳し、そしてその切っ先で一郎の頬を撫でた。

 

「やっ、やめてくれ」

「動くなよ? 動くと切れちまうぜ? いいか、全て正直に答えろよ。一つでも嘘を吐けば、お前の目玉をくり抜く」

 

 男はナイフの先を一郎の目じりに当てた。

 

「たっ、頼む。止めてくれ。何でも話す。全部話すから。そんなことは止めてくれ。お願いだ」

 

 一郎は泣きながら懇願した。

 そして、男に聞かれるままに全てのことを話した。

 

 ただ一点、衛宮蔵人の事だけは何も知らないと嘘を吐いて。

 

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