仕事をやめるたった一つのやり方~18話

第18話 逮捕状

本日の『カクヨム』ミステリーランキング45位でした。

ありがとうございます。

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kakuhaji.hateblo.jp

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「今説明した二つの事件、『マトリクス社』での銃乱射と首都高速での車両爆発。これらに関連した事件がもう一つ――」

 

『戦略捜査室』の会議室では、各部門のチーフたちが集まって響直海の報告を受けていた。

 

「本日の午後七時半頃――中野坂上の建設中の建物の中で大きな音がしたという住民からの通報があり、交番勤務の巡査が駆けつけたところ死体を発見しました。被害者は銃殺されており、身元に繋がるようなものは何も所持していませんでした」

「その事件も、前の二つの事件に関連があると?」

 

 敷島が厳しい表情のまま尋ねた。

 

「はい。サイバー・マトリクス社の監視カメラに映っているこの男性――」

 

 スクリーンに大きく映し出されたのは――冴えない顔をした二十台後半の男性だった。虚ろな目と血色の悪い唇。尖った顎が特徴的な猫背の長身で、似合っていない灰色のスーツ姿が浮いて見えた。

 

「鈴木一郎。二十七歳。マトリクス社の社員です。マトリクス社の現場で発見された死体の一つは、彼の上司の鳩原幸造はとはらこうぞうでした。そして、彼の住居は中野坂上の賃貸マンションです」

「この鈴木一郎が、この一連の事件に関わっていると?」

「はい室長、そのように思います。そして今回のテロの脅威にも、この鈴木一郎が何らかの形で関わっていると考えられます」

「それに関しては、僕の方から」

 

 情報部門のチーフである鹿島が話を引き継いだ。

 彼はスラックスのベルトからこぼれた腹の肉を強くつまんでから話をはじめた。

 

「現場に派遣した捜査官に鈴木一郎が会社で使用している端末を調べさせたところ、彼は日常的に会社のシステムに侵入をしていた形跡があり、彼の端末からはハッキング用のツール、独自に構築した解析ソフトなどが大量に発見されました。さらには大量に削除されたログやメールなども」

「なるほど、どうやら間違いなさそうだな」

 

 鹿島の話に敷島は頷いた。

 

「今考えられるシナリオとしては――何らかの形でテロに関わっている鈴木一郎の口を何者かが封じようとてしており、彼はその事実を知り逃亡をしている」

 

 響がこれまでの情報を繋げて絵を描いて見せる。

 

「鈴木一郎が上司である鳩原に会いに会社に戻ったのは、自分を狙っているものが何者なのかを知るため――または狙われているのは二人ともで、協力をしようと持ちかけたのでは思われますが、後者の可能性は低いでしょう」

 

「理由は?」

 

 戦略捜査室のナンバー2であり、各部門を統括する上級職員の巻波が簡潔に尋ねた。

 

「鳩原には拷問された形跡があります」

「拷問?」

「はい。指を折られています。素人なら簡単に口を割るでしょう」

衛宮蔵人えみやくろうどがやったと?」

「おそらく。このような荒事は彼の得意とするところです」

 

 響は肩を竦めた後、説明を続けた。

 

「さらにマトリクス社の付近の道路では、二名の男性が縛られた状態で発見され、被害者は後ろから襲われて意識を失ったと証言しています。二人の被害者は共にマトリクス社の社員で、二人とも社員証を盗まれていました。そして、この社員証は鈴木一郎と衛宮蔵人がマトリクス社に入る際に使用されています。社の駐車場では轢死体が一つと、車が一台盗難に遭っています」

 

 そこまで報告を終えると、会議室全体が重い空気に包まれた。

 それも当然ことだった。

 

 これからテロの捜査に全力を上げなければいけないという所で、立て続けに三件の関連性のある事件が発生した。

 

 死体の数はすでに十二体。

 

 多くの死体は身元不明であり、ほぼ全員が銃を所持していた。

 さらには衛宮蔵人によるものと思われれる数々の犯罪――傷害、暴行、住居侵入、盗難、数え切れない事件が山のように飛び込んできたのだ。

 

 全て、衛宮蔵人という男が捜査線上に登場した途端の出来事だった。

 

「衛宮蔵人は鈴木一郎の逃亡に手を貸していると考えられるが、理由は?」

 

 敷島が分厚い顎を擦りながら尋ねた。

 その巌のような顔には、深い苦悩の色が見て取れた。

 

「分りませんが。鈴木一郎と衛宮蔵人――この二人に個人的な接点がないところを見ると、テロに関する何かとしか。武装した犯人グループの多くが身元不明であり、日本人でないことを考えると……おそらく、今日のテロ攻撃との繋がりは間違いないと思います。衛宮蔵人が関わり、彼が動いているとすれば、尚更です」

「しかし、その二人は首都高で浚われた可能性が高いと?」

「はい。状況から見れば間違いなく」

「二人の捜索の状況は?」

「二人を連れ去ったのは、黒のハマーです」

 

 スクリーンに手配車両の情報が映し出された。

 

「最後の足取りが確認された高速のインターチェンジから、半径三十キロ圏内を捜索範囲に設定しています。主要な道路には県警による検問を敷いて捜索に当たり、交通局のカメラをうちの分析官が調べています。現場では警察と連携を取り、うちの現場チームが指示を出しています」

「いいだろう」

 

 響の対応に敷島は深く頷いたが、それに異を唱える者がいた。

 

「それでは甘すぎる」

 

 巻波が目を細めて続けた。

 

「今直ぐ、衛宮蔵人と鈴木一郎に逮捕状を出す必要がある」

「しかし、彼を刺激しては――」

 

 響が異論を挟もうとしたが、巻波は聞く耳を持たなかった。

 

「犯人グループは武装した集団である。『SATチーム』を待機させ、現場の判断で銃の仕様を許可すると命令を出しておかなければ、現場に死傷者が出る。無論、衛宮蔵人にも同様の対応を取る」

 

 巻波の対応に、会議室に集まった全ての職員が表情を厳しくした。

 しかし巻波の対応は、現場で想定される最悪を考えれば当然の対応だった。

 

 そのため、誰一人として異を唱える者はいなかった。

 

「分った。そのように当たらせよう。『SAT』を待機させ、現場のチームには発砲を許可しろ。現場部門と情報部門で捜索チームをつくり、警察との連携を密にして事に当たれ」

 

 敷島は重々しく言って会議を打ち切った。

 

 そして、スクリーンの衛宮蔵人に視線を向けて、どうしたものかと静かに息を吐いた。それは、苦悩とも言える重たい溜息だった。

 

 そんな敷島の隣に座る巻波は、室長の煮え切らない態度に苛立ちつつも、それを微塵にも表情には出さなかった。

 

 そして巻波は、冷たい視線の奥で忌々しそうに衛宮蔵人を睨みつけた。

 

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