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仕事をやめるたった一つのやり方~13話

第13話 手遅れだ

本日の『カクヨム』ミステリーランキング34位に入れました。

読んで下さった皆さん、ありがとうございます!!

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kakuhaji.hateblo.jp

 第一話はこちらから読めます ↑

 

『戦略捜査室』の会議室でテロ事件への対応が話し合われている頃、一郎と衛宮はマトリクス社を後にしようとしていた。

 

 鳩原から聞きだせる話は全て聞きだし、『蛟竜』という新しい情報も得ることができた。

 『蛟竜』の詳細については、衛宮も会議室で話し合われた内容と同様程度の知識を持ち合わせていたため、彼はこれ以上鳩原から聞きだせることはないだろうと判断して、鳩原を捜査機関に連行することを決めた。

 

 絶望に打ちひしがれた鳩原は心ここに在らずだった。

 

「私は……本当に何も知らなかったんだ。ただ、金になる話があると持ちかけられて、気が付いた時には抜け出せなくなっていた。私は巻き込まれただけなんだ。私はただ、このごみ溜めみたいな会社の部署を……抜け出したかっただけだ。こんな何の役にも立たない仕事を辞めたかっただけなんだ」

 

 一郎は憔悴しきった鳩原の姿に、自分の姿を重ねていた。

 

 もしも自分が鳩原と同じように鵜飼に話を持ちかけられ、知らず知らずのうちにテロに加担していとしたら、自分は真実を知った時にそれを打ち明け、テロリストと対峙することができただろうか?

 

 そんなことを考えた。

 

「……衛宮、鳩原部長を警察に連れて行かなきゃだめなのか?」

 

 一郎は居た堪れなくなってそう尋ねた。

 自分が殺されかけたことなど忘れていた。

 

「ああ、鳩原の証言は捜査の役に立つ」

「そうだけど……」

「テロに加担していたんだ、どの道、罪に問われることは間逃れない」

 

 衛宮は断言して続ける。

 

「僕たちが連れて行くと言っても、鳩原が自首をしたという形を取るつもりだ。鳩原がその後の捜査に協力的であれば、情状酌量の余地はあるだろう。イチロー、お前も話を聞かれるだろうから、鳩原を庇いたいならそうすればいい。検察の心象も良くなるだろう」

「そうするよ」

「お前も不思議な男だな。鳩原は、お前に濡れ衣を着せることを知っていたんだぞ。それに会社では、ずいぶんひどい目に合わされていたって言っていたじゃないか?」

 

 衛宮は『電気羊』で一郎から聞いた愚痴の数々を思い出して言った。

 

「だけど……一生を刑務所で過ごさせるほどのことはされてない」

 

 衛宮はそれ以上何も言わず、肩を竦めるにとどめた。

 

 エレベーターは地上一階に着き、三人はエントランスに向けて歩き出した。

 終業時間は当に過ぎているため、エントランスにはほとんど人はおらず、ぽっかりと穴が開いたように閑散としていた。

 警備員もガラス張りの警備室で退屈そうに欠伸を噛み殺し、入り口の脇では黒いジャケットを来た男二人組が立ち話をしていた。

 

 特に珍しくもない光景で、部署を抜け出して息抜きをしているのだろうと、一郎は居た堪れない気持ちになった。

 

 三人はゲートで社員証を翳そうとした。

 その瞬間、衛宮はジャケット姿の男が胸に手を伸ばすのを見て大声を上げた。

 

「――伏せろっ」

 

 続いて響いたのは銃声だった。

 入り口脇の男二人が、ゲートを潜ろうとした三人に向けて銃を乱射した。

 

イチロー、大丈夫か?」

 

 衛宮はゲートに身を隠して銃弾をやり過ごしながら、二人の安否を確かめるように声を上げた。そして、自分も銃を取り出し、威嚇目的で三発発射した。

 

 その内一発が敵を撃ち抜いた。

 一郎と衛宮を襲撃した敵は、標的が銃を持っているとは知らなかったようで、予期せぬ応戦に怯んでいた。

 

「なっ、何が起きてるんだ? これは一体なんだ?」

 

 身を屈めて両手で頭を抑えた一郎が、悲鳴のような声を上げた。

 

イチロー、生きてるな? 怪我は?」

「たぶんどこも撃たれてない」

「分った。その場でじっとしていろ」

「鳩原部長は?」

 

 一郎はすぐ近くで身を屈めている鳩原に近づいてみたが、その光景に絶句した。

 

「そっ、そんな……鳩原部長?」

 

 鳩原が頭を打ち抜かれて死んでいた。

 頭からは赤い血が流れ続け、白いタイルを真っ赤に染めている。

 

「くそっ」

 

 衛宮は怒鳴り、鳩原の前で愕然としている一郎に声をかけた。

 

イチロー、この会社にはもう一つの出口があったな? おいっ、イチロー、しっかりしろっ」

「あ、ああ? 駐車場に繋がっている裏口がある」

「そこまで走れ。僕が銃で援護する」

「でも、鳩原部長は?」

「もう死んでる。手遅れだ」

「そんな? でも、だからって……」

 

 衛宮は一郎の肩を掴んで大きく揺すった。

 

「いいか? 次はお前の番だ。奴らはテロの情報を掴んだ全員を殺す気でいる。いいかイチロー、良く聞け? 僕が銃を撃ったら、それを合図に走るんだ。できるな?」

「ああ、分った。出来る。でも……衛宮は?」

「直ぐに追いつく。行け」

 

 一郎が頷く前に、衛宮は立ち上がって銃を撃った。

 一郎は恐怖に震えたまま、とにかく衛宮に言われた通リ走った。

 

 背中には、フロア全体を震わせるような銃声が響き渡っていた。

 

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