マリーと魔法使いヨハン50話

050 紅い瞳のテンプルナイト

 

kakuhaji.hateblo.jp

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 そして、もう一人――――

 同じ夜空を眺めている女性がいた。

 マリーだった。

 昨夜、影にさらわれた後“アルバトロス”の船内で目覚めたマリーは、今自分の目の前で起こっている状況を、未だに理解できずにいた。

 飛空挺の中とは思えない船室――――まるで豪華客船の一等船室のようで、その船室の大きなソファーの上に、落ち着かない様子でマリーは腰を掛けている。大きな丸窓の外に広がる、幾千幾億もの星空を眺めながら、マリーはこの部屋で目覚めた時の事を思い出していた。

「おはようございます、マリーさん」

 マリーがベッドの上で目覚めた時、水を入れたグラスを差し出しながら、その女性は申し訳なさそうな表情を浮かべておずおずとお辞儀をした。

「私の名前はヴィクルト。今日から暫く、マリーさんのお世話をさせていただきます」

 野に咲く一輪の花ように慎ましく、そして美しい女性を目の前にして、マリーは昨夜自分がさらわれたことを、一瞬忘れてしまった。

 しかしマリーは、直ぐに顔色を変えて尋ねる。

「ねぇ、あなたは、いったい?」

 マリーは直ぐに言葉の続きを飲み込み、そして言葉を強くした。

「あなたちは、いったい何者なの?」

 マリーの言葉にヴィクルトは表情を変えず、優しい言葉を発した。
 彼女は亜麻色の長い髪の毛に、清楚な白色の長衣を纏っており、質素な服装ながらも高貴な雰囲気を醸し出していた。

「私たちは――――“テンプルナイト”」

「“テンプルナイト”?」

 マリーはヴィクルトの言葉をなぞりながら、昨夜ヘイムデイルと名乗った大男も、彼女と同じことを言っていたことを思い出した。

「そう――――“テンプルナイト”。以前は、偉大なる王の元に集った騎士団でしたが――――今は、魔法使いの騎士団ですね」

「騎士団? いったいその騎士団が、どうして“聖杯”を狙うの?」

 ヴィクルトは申し訳なさそうに瞳を伏せた。

「昨夜の事ですが、本当に貴方たちを危険な目に合わせるつもりはなかったんです。でも私たちにも時間がなく、つい手荒な方法を取ってしまいました。本当に申し訳なさそうに思っております」

 それを聞いたマリーは昨夜の事を思い出し、表情を変えてヴィクルトに尋ねる。

「ねぇ、ヨハンは――――ヨハンは無事なの?」

 影に飲み込まれてからのことを何一つ覚えていないマリーは、ヨハンの事が心配で堪らなかった。

「ええ、もちろん無事です」

 その答えは目の前のヴィクルトからでなく、別の声によってもたらされた。

 声の主は、いつの間にかヴィクルトの後ろに立っていて、マリーと目が合うなりひざまずいて頭を下げる。

「私の名前はランスロット。昨夜は手荒な方法を用いて申し訳ありません――――何分説明している暇が無かったもので」

 顔を上げた男性は真摯な態度で言葉を発した。

 マリーは男の声を聞いた時、直ぐに昨夜の“見えない声の主”だと気がついた。ランスロットと名乗った男は、長い金髪を肩口まで伸ばし、無精髭とこけた頬が印象的な中年の男性だった。

 ヨハンの無事を聞いたマリーは、安堵のため息をついて二人を眺めた。するとマリーは、直ぐにあることに気がついた。二人共、瞳の色が全く同じだった。昨夜、橋の上に現れたヘイムデイルという男も含めて、“テンプルナイト”と名乗った者たちの瞳の色が、全員同じ“あか”色の瞳をしていた。

 美しい紅の瞳はどこか儚げで、精一杯の光を放っているようにマリーには見えた。

「申し訳ないのですが、今は私たちの目的を貴方に告げることはできません。しかし、私たちは貴方に危害を加える気はありません。貴方の中から“聖杯”を取り除いたら、無事に貴方をお返しすると誓いましょう。それまではどうか、私たちに従ってください」

 ランスロットは申し訳なさそうにマリーにそう告げると、いつの間にかその場から姿を消していた。音もなく消えた男をたいして驚いた様子もなく見送ったマリーは、再び亜麻色の長いウエーブのかかった髪の毛をした、ヴィクルトに視線を戻した。

「今の話m本当?」

 マリーは自分が殺されてしまうかもしれないと思っていたので、無精髭ぶしょうひげの男の言葉を聞いて驚いて尋ねました。

「ええ、本当です。マリーさんが信じられないと思うのも無理はありませんが、私たちは本当に貴方に危害を加える気はないのです。だから、しばらくの間、ここでじっとしていて下さい」

 ヴィクルトは申し訳なさそうにそう告げると、ゆっくりと立ち上がり慎ましく頭を下げた。

「後で夕食をもって来ます。それと、何か困った事がったら直ぐに言ってください」

 そう言いったヴィクルトも、ランスロットと同じように音もなく姿を消してしまった。

 マリーは窓の外に広がる星の瞬きを眺めながら、ヨハンの事を考えていた。

 影に飲み込まれながらも必死にマリーの手を握り、必死に叫び続けていてくれたことを――――マリーは覚えていた。

「マリー待っていて、直ぐに助け出すから」

 マリーは待っていた。

 ヨハンが助けにくるのを、夜空を眺めながら静かに待っていた。

 不思議とマリーに不安はなかった。

「――――ヨハン」

 マリーは夜空に向かって――――

 そっと囁くようにヨハンの名を呼びました。
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こちらの物語は、『小説家になろう』に投稿していたものをブログに掲載し直したものです。『小説家になろう』では最終回まで投稿しているので、気になったかたはそちらでもお読みいただけると嬉しいです。

 

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