マリーと魔法使いヨハン88話
088 自分の世界は続いて行く
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どれだけの時間が、この空間に流れたのだろうか――――
マリーには、そんなことを考えられる余裕も気力もなかった。
乾いた涙の上にまた冷たい涙が流れ、擦り切れた声はもう声を発することが出来ずに――――ただ金属が擦 れるような呻き声が、喉の奥から漏れ続けるだけだった。
マリーはそれでも、ただヨハンの胸に顔を埋め、ただ悲しみに嘆くことしかできなかった。
そんなマリーを見て、その後ろで立ただち尽くしていたユダは、静かに口を開いた。
「そんな涙を流すために、君の魔法使いは――――ヨハンは、君とこの世界に命をかけたのではないだろう? 君の中には、まだ“聖杯”が眠っている。そのことを知れば、今度は“グラール”や“世界政府”、“魔法省”が、君の事を放ってはおかないはずだ。ヨハンの死を無駄にしないためにも、私は君を無事に“ボロニア”に送り届ける義務がある――――さぁ、立ちなさい」
ユダの言葉に何の反応も示さず、マリーはヨハンの胸の中で体を震わせ続けた。
「もう、私たちに残された時間は少ない。この空間も、そしてこのアルバトロスも、長くはもたない。私は、君をこんなところで死なせるわけにはいかないのだ」
それでも、マリーはユダに対して何の反応も示さなかった。
ぽっかりと空いた空虚 の心に冷たい風が吹き、その風に身を委ね続けるマリーに、ユダの言葉は届かなかった。
何も感じず、何も考えられないマリーは心を失ってしまったように――――ただ呆然と、ヨハンの胸に顔を埋めることしかできなかった。
―――――マリー、目を覚まして。
突如、頭に響いた聞きなれた声に、マリーは思わず瞳を開いた。
――――マリー、あなたは全てを受け入れる杯。これが、あなたの全て。あなたの世界よ。
マリーは、涙に濡れた顔を大きく振りました。
「こんなの全てじゃないわ。私は、こんなの受け入れられない」
頭の中に響く声の主に、マリーは言葉を返した。
――――マリー立ち上がりなさい。これは、あなたの舞台。あなたの幕はまだ降りていないのよ。
「無理よ。もう、何も考えられないもの。ねぇ、ヨハン――――私、受け入れられないよ。どうしてあなたが命を落とさなきゃならないの?」
マリーは、もう一度ヨハンの顔を覗き込んだ。
穏やかに眠るヨハンの頬に、マリーのダイヤモンドのように輝く涙が一粒零れ落ちた。
しかし、ヨハンはただ穏やかな表情で、眠り続けていた。
――――あなたが受け入れられないのならば、あなたが変えればいい。それが、あなたの力。受け入れることは、選択すること。あなたは、何を選択するの? 生きること、それとも死ぬこと? さぁ、マリー、選びなさい。
マリーは必死に頭の中で考えました。しかし答えは出ず、マリーの真っ白な頭の中には、ヨハンのことだけが波紋のように広がり続けていた。しかし、マリーは考えなくとも知っていた。
もう解っていた――――ヨハンはこんなことは望んでいないし、自分もここに留まっていてはいてはいけないと。
マリーは弱々しく頷いた後、勢いよく瞳を開いて立ち上がる決心をした。
これからも自分の世界は続いて行く、まだ自分の舞台の幕は降りてはいないと――――マリーは自分に強く言い聞かせた。まだ涙で濡れた瞳を強く擦り、マリーは広い世界に目を向けた。
そしてマリーはヨハンを抱えて立ち上がろうとし、もう一度だけヨハンの顔を覗き込んだ。
「――――ヨハン」
後ろ髪を引かれたように――――
マリーはヨハンに視線を落とし、自分の涙で濡れたヨハンの頬をそっと指先で撫でた。
そして、マリーは冷たくなったヨハンの顔に自分の顔をそっと近づけ、マリーは静かにヨハンの唇に自分の唇を重ねた。
マリーには、そんなことを考えられる余裕も気力もなかった。
乾いた涙の上にまた冷たい涙が流れ、擦り切れた声はもう声を発することが出来ずに――――ただ金属が
マリーはそれでも、ただヨハンの胸に顔を埋め、ただ悲しみに嘆くことしかできなかった。
そんなマリーを見て、その後ろで立ただち尽くしていたユダは、静かに口を開いた。
「そんな涙を流すために、君の魔法使いは――――ヨハンは、君とこの世界に命をかけたのではないだろう? 君の中には、まだ“聖杯”が眠っている。そのことを知れば、今度は“グラール”や“世界政府”、“魔法省”が、君の事を放ってはおかないはずだ。ヨハンの死を無駄にしないためにも、私は君を無事に“ボロニア”に送り届ける義務がある――――さぁ、立ちなさい」
ユダの言葉に何の反応も示さず、マリーはヨハンの胸の中で体を震わせ続けた。
「もう、私たちに残された時間は少ない。この空間も、そしてこのアルバトロスも、長くはもたない。私は、君をこんなところで死なせるわけにはいかないのだ」
それでも、マリーはユダに対して何の反応も示さなかった。
ぽっかりと空いた
何も感じず、何も考えられないマリーは心を失ってしまったように――――ただ呆然と、ヨハンの胸に顔を埋めることしかできなかった。
―――――マリー、目を覚まして。
突如、頭に響いた聞きなれた声に、マリーは思わず瞳を開いた。
――――マリー、あなたは全てを受け入れる杯。これが、あなたの全て。あなたの世界よ。
マリーは、涙に濡れた顔を大きく振りました。
「こんなの全てじゃないわ。私は、こんなの受け入れられない」
頭の中に響く声の主に、マリーは言葉を返した。
――――マリー立ち上がりなさい。これは、あなたの舞台。あなたの幕はまだ降りていないのよ。
「無理よ。もう、何も考えられないもの。ねぇ、ヨハン――――私、受け入れられないよ。どうしてあなたが命を落とさなきゃならないの?」
マリーは、もう一度ヨハンの顔を覗き込んだ。
穏やかに眠るヨハンの頬に、マリーのダイヤモンドのように輝く涙が一粒零れ落ちた。
しかし、ヨハンはただ穏やかな表情で、眠り続けていた。
――――あなたが受け入れられないのならば、あなたが変えればいい。それが、あなたの力。受け入れることは、選択すること。あなたは、何を選択するの? 生きること、それとも死ぬこと? さぁ、マリー、選びなさい。
マリーは必死に頭の中で考えました。しかし答えは出ず、マリーの真っ白な頭の中には、ヨハンのことだけが波紋のように広がり続けていた。しかし、マリーは考えなくとも知っていた。
もう解っていた――――ヨハンはこんなことは望んでいないし、自分もここに留まっていてはいてはいけないと。
マリーは弱々しく頷いた後、勢いよく瞳を開いて立ち上がる決心をした。
これからも自分の世界は続いて行く、まだ自分の舞台の幕は降りてはいないと――――マリーは自分に強く言い聞かせた。まだ涙で濡れた瞳を強く擦り、マリーは広い世界に目を向けた。
そしてマリーはヨハンを抱えて立ち上がろうとし、もう一度だけヨハンの顔を覗き込んだ。
「――――ヨハン」
後ろ髪を引かれたように――――
マリーはヨハンに視線を落とし、自分の涙で濡れたヨハンの頬をそっと指先で撫でた。
そして、マリーは冷たくなったヨハンの顔に自分の顔をそっと近づけ、マリーは静かにヨハンの唇に自分の唇を重ねた。
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こちらの物語は、『小説家になろう』に投稿していたものをブログに掲載し直したものです。『小説家になろう』では最終回まで投稿しているので、気になったかたはそちらでもお読みいただけると嬉しいです。