マリーと魔法使いヨハン82話

082 暁、明星、そして、

 

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 目を覚ましたヨハンの虚ろな視界は、直ぐに色を取り戻して鮮明になり、後頭部の痛み意識を現実へと誘った。視点が定まり、夜の闇が色濃く漂う空間に視線を配ると、ヨハンは直ぐに自分の体が身動きの出来ないことに気がついた。

 ヨハンの身体は幾重にも覆う“銀の紐”で固く縛られ、身動きをとるどころか、魔力を練ることすらろくに出来なかった。

「――――どうだ、指一つ動かせぬだろう?」

 もがこうとするヨハンの傍らで、ユダが語り掛けた。

「その魔法の“紐”は、かつて神々を食い殺す魔狼すら岩に縛り付けたと言う」

 ヨハンは黙ったまま、ユダを睨みつけた。

 しかし、ユダはヨハンなど気にもせず、壇上から大聖堂を見渡し、中心に立ったマリーに視線を注いだ。

 マリーはユダの瞳と同じ儚い紅の衣を纏い、手にはヨハンからもらった髪飾りを強く握っていた。そして、その表情は深い不安の色を浮かべていた。

「さぁ、“聖杯の乙女”よ――――いまから汝の中に眠る“聖杯”を取り出す。“テンプルナイト”よ――――」

 ユダが、マリーを中心にして円をつくる“テンプルナイト”の十二人に目を配ると、十二人のテンプルナイトたちは、手に持った各々の武器を地に打ちつけてユダの言葉に応えてみせた。

「我が悠久の友たちよ――――終に“キャメロット”の栄光がこの地に戻る。七十年――――肉体を失ってからこの日が来るまで、七十年の歳月が流れた。魔法使いでない友たちには、果てしなく長い、辛く苦しい道のりだっただろうが、ようやく、あの日の誓いを果たす日が来た」

 ユダが大きく手を広げると、十二人の騎士が創る大きな円は――――日が昇るように光を帯び始めました。

 そして、ユダは一歩ずつ、これまでの長く険しい道のりを踏みしめるように、時間をかけて壇上を下って行った。そしてユダが壇上を下り終え、十三人目となる円の一部に加わると、マリーを中心として創られた円が帯びた光は更に強くなり、赤い光が大聖堂に広がった。

 まるで天から降りるビロードの幕のように、赤い光は十三人がつくる円をドーム型にすっぽりと包み込んだ。

 ユダは身を包む赤い光を愛おしそうに眺め、十二人のテンプルナイトにも、同様の視線を配った。そして円の中心に立ち尽くすマリーを眺めて、満足げに頷きました。

「さぁ、パンドラを宿す娘、伝説に記されし“聖杯の乙女”――――」

 ユダは高らかに言葉を続ける。

「汝の光をもって、もう一度“キャメロット”に栄光をもたらさん。我の名はユダ・マキュベリア――――黙示の魔法使いにして、この世ならざるもの。穢れた肉体を受け入れ、穢れなき魂を持ち続ける者。ここに揃う十三の心の臓と、大いなる魔力を持って――――汝を解放する」

 ユダの声が静寂の大聖堂に響くと――――

 円を取り巻く光は暁を迎え、そしてユダと十二人のテンプルナイトを繋ぐように、地面に赤い円を浮かび上がらせた。

 巨大な円はマリーの立つ中心から光の柱が立ち上り、そして幾つもの文字と図形、幾重にも重なった巨大な五芒星を赤い光で描いた。流れる川のように広がる赤い光は、大きな円と五芒星、そして円の中に隙間なく書かれたルーン文字で構成された魔法陣を駆け巡り――――

 ――――赤い光が立ち昇る魔法陣の中心で、その光は明星みょうじょうへと至った。
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こちらの物語は、『小説家になろう』に投稿していたものをブログに掲載し直したものです。『小説家になろう』では最終回まで投稿しているので、気になったかたはそちらでもお読みいただけると嬉しいです。

 

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