マリーと魔法使いヨハン81話
081 賢くあれとは――――
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ヨハンは腰のチェーンに手を伸ばし、羽のアクセサリーを箒に変えると、即座に箒に二本の足を付けて飛び立った。
箒は直ぐに上昇し、ヨハンは落ちてくる星々に手を翳した――――すると、星たちは地面に落ちる前に反れて軌道を変え、元の星座へと戻って行った。
「“星座堕し ”か? また古い魔法を――――」
言いながらヨハンは更に警戒のレベルを上げた。
ヨハンの目の前には、この空間を覆い尽くさんばかりに巨大な大蛇が、毒の滴る牙を剥きだしにした大きな口を垂直に広げて迫って来た。
ヨハンが箒を操作してそれを躱すと――――蛇の尾がヨハンと箒を上空から叩きつけ、勢いよく地面へと打ちつけた。箒から転落して地面に背を打ったヨハンは、一瞬、意識が遠のき、目の前の視界が乱れたが、直ぐに意識を大蛇に向け直した。
大蛇は紫色と黄色の斑模様の皮膚を持ち、大きな口から赤く長い舌を伸ばして、瞳はいやらしく弧を描いてヨハンを見据えていた。
ヨハンは体の発条 を使って立ち上がり、巨大な大蛇を睨みつけた。そして、大蛇は起き上がったヨハンは飲み込もうと地を這う。ヨハンは大蛇の追撃を躱し、大蛇の斑の皮膚に手を伸ばして短い単語を呟きいた。すると、大蛇はヨハンを丸呑みにする直前で、手のひらぐらいの大きさの蛙 に変わり、ヨハンに向かって不平を漏らすようにゲコゲコ鳴いた。
「次から、次へと――――」
大蛇との攻防が終わると、ヨハンは直ぐに上空に視線を向ける。
視線の先から降ってきたのは、ユダが放った光の杖だった。ヨハンを目掛け、幾筋もの光の杖がヨハンの体を地面に磔にし、身動きが取れぬように封じた。ヨハンは何とかこの光の杖から逃れようともがいてみせるが、ユダの杖はヨハンの衣類ごと地面に突き刺さっており、更にヨハンを拘束するための特別な魔法もかかっているため、思うようにはいかなかった。
必死に対抗策を考えるヨハンの直ぐ目の前に、非常にもユダが立ち尽くし、儚く揺らめく紅の瞳でヨハンを見下ろした。
「どうだ小僧――――これが、力の差だ?」
「まだ終わってないさ」
しかし、ヨハンは絶体絶命のこの状況でにやりと悪戯な笑みを浮かべてみせ、腰のチェーンに付いた三日月のアクセサリーを握って魔法を唱えた。
刹那――――
激しい閃光が弾け、一瞬、まるで日が昇ったように辺りを照らし出した。
突然の閃光を浴びて、ユダだけでなく、マリーやテンプルナイトも目が眩んでいた、
そして、再び夜が訪れ、全員の瞳が視界を取り戻すと――――そこには、先程まで地面に貼り付けられていたヨハンが立ち尽くし、肩膝をつけて中腰のユダの首には、ヨハンの魔笛が突きつけられていた。
「全ての魔法使いよ賢くあれ――――勝負ありだね?」
「――――見事」
ユダは完敗を現すように手を広げて笑みを浮かべた。
「だが――――」
その瞬間、ヨハンは頭が真っ白になり、そして地面に崩れ落ちた。
「貴様は純粋すぎる――――賢くあれとはこういうことだ」
ユダは倒れたヨハンの直ぐ後ろに立っているローブの男を見据えた。
「すまないランスロット、手を煩わせたな」
「いえ、とんでもない」
それは、後頭部への打撃だった。
ヨハンがユダに笛を突きつけた瞬間、ランスロットは物音一つ立てず、俊足でヨハンまでの距離を詰めると、腰に収めた剣の柄でヨハンの後頭部に激しい一撃を食らわせた。完全に意識をユダにだけ向けていたヨハンは、辺りに気を配る余裕もなく、何が起きたのかも理解できぬまま地面へと崩れ落ちてしまった。
そんなヨハンを見下ろし、体の埃を叩きながらユダは口を開いた。
「貴様がこの空間に現れた時から勝負などは存在してはいなかった。賢くとは――――狡猾で冷酷であれということだ」
ユダは夜空を仰ぎ、魔力のざわめきに耳を傾けた。
「ようやく全てが終わり、全てが始まる。さぁ――――」
ユダが高らかに宣告すると、マリーは自分の目の前にいる二人の男を掻き分けて、ヨハンの元に走り出した。
しかしヨハンに向かう途中でユダに手を取られ、マリーはユダを睨みつけた。
「放してっ。卑怯よっ。ヨハンの相手は、あなた一人だって言ったくせに――――後ろから不意打ちなんて卑怯じゃない?」
怒りに身を震わせて、マリーは怒鳴るように言った。
「これは失礼」
ユダは身を屈めて頭を垂れると、再び視線をマリーに戻した。
「だが、魔法使いとは卑怯なものだ。そう、国一つを消してしまうほどに――――卑怯で残酷なものなのだよ」
ユダは身も凍るような死神の表情を浮かべ、心臓を鷲摑みにしてしまうような鋭い視線でマリーを見つめた。
「“聖杯の乙女”よ、あなたが直ぐにでも協力してくれるというのならば――――あなたと、あの魔法使いは必ず開放しよう。今は、あなたとの議論の場ではない」
半ば脅迫されているような心境で、マリーは仕方なく頷いた。
マリーには分かっていた。
自分には何一つ決められることなど無く、全てを受け入れることしか出来ないと――――マリーはその魂で理解していた。
自分は、全てを受け入れる受け皿。
マリーはそんな自分を情けなくもどかしく思いながらも、気を失って地面に倒れているヨハンに視線を移し、ユダの言葉に従った。
箒は直ぐに上昇し、ヨハンは落ちてくる星々に手を翳した――――すると、星たちは地面に落ちる前に反れて軌道を変え、元の星座へと戻って行った。
「“
言いながらヨハンは更に警戒のレベルを上げた。
ヨハンの目の前には、この空間を覆い尽くさんばかりに巨大な大蛇が、毒の滴る牙を剥きだしにした大きな口を垂直に広げて迫って来た。
ヨハンが箒を操作してそれを躱すと――――蛇の尾がヨハンと箒を上空から叩きつけ、勢いよく地面へと打ちつけた。箒から転落して地面に背を打ったヨハンは、一瞬、意識が遠のき、目の前の視界が乱れたが、直ぐに意識を大蛇に向け直した。
大蛇は紫色と黄色の斑模様の皮膚を持ち、大きな口から赤く長い舌を伸ばして、瞳はいやらしく弧を描いてヨハンを見据えていた。
ヨハンは体の
「次から、次へと――――」
大蛇との攻防が終わると、ヨハンは直ぐに上空に視線を向ける。
視線の先から降ってきたのは、ユダが放った光の杖だった。ヨハンを目掛け、幾筋もの光の杖がヨハンの体を地面に磔にし、身動きが取れぬように封じた。ヨハンは何とかこの光の杖から逃れようともがいてみせるが、ユダの杖はヨハンの衣類ごと地面に突き刺さっており、更にヨハンを拘束するための特別な魔法もかかっているため、思うようにはいかなかった。
必死に対抗策を考えるヨハンの直ぐ目の前に、非常にもユダが立ち尽くし、儚く揺らめく紅の瞳でヨハンを見下ろした。
「どうだ小僧――――これが、力の差だ?」
「まだ終わってないさ」
しかし、ヨハンは絶体絶命のこの状況でにやりと悪戯な笑みを浮かべてみせ、腰のチェーンに付いた三日月のアクセサリーを握って魔法を唱えた。
刹那――――
激しい閃光が弾け、一瞬、まるで日が昇ったように辺りを照らし出した。
突然の閃光を浴びて、ユダだけでなく、マリーやテンプルナイトも目が眩んでいた、
そして、再び夜が訪れ、全員の瞳が視界を取り戻すと――――そこには、先程まで地面に貼り付けられていたヨハンが立ち尽くし、肩膝をつけて中腰のユダの首には、ヨハンの魔笛が突きつけられていた。
「全ての魔法使いよ賢くあれ――――勝負ありだね?」
「――――見事」
ユダは完敗を現すように手を広げて笑みを浮かべた。
「だが――――」
その瞬間、ヨハンは頭が真っ白になり、そして地面に崩れ落ちた。
「貴様は純粋すぎる――――賢くあれとはこういうことだ」
ユダは倒れたヨハンの直ぐ後ろに立っているローブの男を見据えた。
「すまないランスロット、手を煩わせたな」
「いえ、とんでもない」
それは、後頭部への打撃だった。
ヨハンがユダに笛を突きつけた瞬間、ランスロットは物音一つ立てず、俊足でヨハンまでの距離を詰めると、腰に収めた剣の柄でヨハンの後頭部に激しい一撃を食らわせた。完全に意識をユダにだけ向けていたヨハンは、辺りに気を配る余裕もなく、何が起きたのかも理解できぬまま地面へと崩れ落ちてしまった。
そんなヨハンを見下ろし、体の埃を叩きながらユダは口を開いた。
「貴様がこの空間に現れた時から勝負などは存在してはいなかった。賢くとは――――狡猾で冷酷であれということだ」
ユダは夜空を仰ぎ、魔力のざわめきに耳を傾けた。
「ようやく全てが終わり、全てが始まる。さぁ――――」
ユダが高らかに宣告すると、マリーは自分の目の前にいる二人の男を掻き分けて、ヨハンの元に走り出した。
しかしヨハンに向かう途中でユダに手を取られ、マリーはユダを睨みつけた。
「放してっ。卑怯よっ。ヨハンの相手は、あなた一人だって言ったくせに――――後ろから不意打ちなんて卑怯じゃない?」
怒りに身を震わせて、マリーは怒鳴るように言った。
「これは失礼」
ユダは身を屈めて頭を垂れると、再び視線をマリーに戻した。
「だが、魔法使いとは卑怯なものだ。そう、国一つを消してしまうほどに――――卑怯で残酷なものなのだよ」
ユダは身も凍るような死神の表情を浮かべ、心臓を鷲摑みにしてしまうような鋭い視線でマリーを見つめた。
「“聖杯の乙女”よ、あなたが直ぐにでも協力してくれるというのならば――――あなたと、あの魔法使いは必ず開放しよう。今は、あなたとの議論の場ではない」
半ば脅迫されているような心境で、マリーは仕方なく頷いた。
マリーには分かっていた。
自分には何一つ決められることなど無く、全てを受け入れることしか出来ないと――――マリーはその魂で理解していた。
自分は、全てを受け入れる受け皿。
マリーはそんな自分を情けなくもどかしく思いながらも、気を失って地面に倒れているヨハンに視線を移し、ユダの言葉に従った。
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こちらの物語は、『小説家になろう』に投稿していたものをブログに掲載し直したものです。『小説家になろう』では最終回まで投稿しているので、気になったかたはそちらでもお読みいただけると嬉しいです。