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マリーと魔法使いヨハン79話

マリーと魔法使いヨハン(完結済み) 小説

079 貴様の目には映っているか?

 

kakuhaji.hateblo.jp

 第1話はこちらから読めます ↑

 

 高らかに言葉を述べた後――――

 ユダはローブの袖でゆっくりと顔をなぞってみせた。
 そして、再びローブの裾から覗かせる顔は、厳しい表情の老人だった。老人の顔に刻まれた深い皺の一つ一つは大木の年輪のようで、その皴に出来る影は深く淀み混沌としていた。

「まさか、あなたが? オーディン・グラハ――――僕らもう何十年もあなたに騙されてきたのか?」

 ヨハンは驚愕の表情で言葉をこぼした。

「そうだ。私は“獅子の戦”が終結してから今日まで、歴史の全てに手を貸してきた。“世界政府”を発足させた時も、権力が一つに集中せぬように力を三つに分けた。それが今日こんにちの“魔法省”と“ヴァルハラ評議会”だ。そして、私自らがその最高議長の座に座り、今まで幾度となく争いからこの世界を防いできた」

「じゃあ、いまさらどうして“聖杯”を手にする必要がある?」

「もう、これしかないのだよ。あの異大陸への戦争は、“バグラ”への侵攻は、誰にも止められなかっただろう。我々評議会が反対したところで、歴史があの戦争を望んだ。我々に止める術など、最初から無かった――――」

 ユダは力なく肩を落とし、世界を包み込むほどに深いため息をついた。

「“グラール”も、“白獅子”も、魔法石の眩さに目が眩み、近い将来あの大陸を攻めていただろう。だから、我々自らが許可を出した。あの地に“聖杯”があることを知っていたからだ。戦争の最中なら、聖杯を手に入れることが容易いと判断したからだ。これが最後の機会なのだよ――――分かってくれ」

 ユダはもう一度自身の顔に触れ、老人の顔から元の顔に戻ってみせた。
 そして大きく手を開き、自分たちの正当性を主張するようにヨハンに訴えかけた。

「一つ、聞かせてくれないか――――」

 ヨハンは曇りなき瞳でユダを見つめた。

「――――“聖杯”を戦争の道具にする気は?」

「無い」

 ユダもまた曇りなき瞳で、曇りなき真実を口にした。

 壇上から見下ろすユダの紅い瞳、儚く揺らめく赤い炎の奥を見透かすように、ヨハンは黙ったままユダを見つめていた。

「この力は、あくまでも抑止力――――“キャメロット”を守護していた“テンプルナイト”のように、守る力なのだ」

「そうか、安心したよ」

 ヨハンは笑顔を浮かべて答えた。
 しかし、ヨハンは翡翠の瞳を鋭く輝かせた。

「だけど、意見の相違だね」

 ヨハンは腰のアクセサリーに手を落とした。

「それが答えか?」

 ユダは静かに尋ねた。

「ああ」

 ヨハンは頷いた。

「――――ならば仕方ない」

 ユダは儚く揺れる紅い瞳を鋭くし、草臥れた白髪をかきあげた。そして死神の表情を浮かべて宙へと舞い上がった。

 ユダは二人の白いローブの男が守護するマリーの前に着地すると、激しい重圧をヨハンに浴びせかけた。

 ヨハンはその重圧に潰されそうになりながらも一歩前に踏み出し、ユダを相対すると同時に、自分たちを取り囲む十二人にも目を配った。

「安心しろ、マリーに危害を加える気はない。そして、貴様の相手は私一人だ。私が敗れれば――――全ては終わる」

 そう告げたユダは、地面でぐったりしているガラハッドに視線を向けた。

「ガラハッドよ、いつまで眠っている」

 その言葉でガラハッドは目を覚ました。

「くそっ、結局僕もいいようにあしらわれた訳か?」

 その言葉にヨハンとユダは答えず、ただ黙ったままお互いだけを見つめていた。

 二人の間に異様な空気が流れ、刺すような戦慄だけがお互い包み込んでいた。

「さぁ、下がっていてくれ――――」

 ユダが言うと二人の男はマリーを連れて後ろに下がり、そしてガラハッドもこの戦闘を見守るように円の一部に加わった。

「ヨハン、無理はしないで」

 マリーは張り裂けそうな心で、ヨハンに声をかけた。

「ああ、直ぐに迎えに行く」

 ヨハンの言葉にマリーは頷いた。

 ヨハンの言葉は、重くしんと静まり返った空間に飲み込まれて行き、緊張と戦慄だけがその言葉に答えて空間を覆い尽くした。

「も一度尋ねよう――――答えは変わらぬか?」

「ああ」

 ヨハンは即答した。

「やはり、聖杯をあなたたちには渡せない。大きな力は、何れまたさらに大きな力を生む。それが、僕が先生に教わった力の因果だ。ユダ、あなたのやり方では、戦うための戦いでは、争いはなくならない」

「貴様の目には映っているか?」

 ユダは静かに尋ねた。

「この先に続く、この時代の大きな流れが――――貴様の目には映っているのか?」

 ヨハンは静かに首を振った。

「未来は常に虚ろな月の影――――誰にも見透かすことはおろか、予測することすら出来はしない」

「そうか」

 ユダは穏やかに瞳を緩めた。

「だが、しかし、私には見えているのだ。“キャメロット”の栄光が――――その光こそ、私の全て」
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こちらの物語は、『小説家になろう』に投稿していたものをブログに掲載し直したものです。『小説家になろう』では最終回まで投稿しているので、気になったかたはそちらでもお読みいただけると嬉しいです。

 

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