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マリーと魔法使いヨハン77話

077 最終幕、最終章

 

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 第1話はこちらから読めます ↑

 

 暗く沈んだ大聖堂――――

 沈黙は何重にもかけられ、決して千切れぬ鎖のようにその静寂を保っていた。

 大聖堂の天井には深い夜の帳が覆い、次の暁を待ちわびている。そして、今夜の帳はいつもよりも暗く、辺に星の光はなかった。空に浮かぶ数多の星たちですら、これから起こる光景に恐れをなしたのか――――月の消えた夜に、星たちはその姿を現す気配すらなかった。

 この神聖で不吉な宵を目の当たりにし、全てのものが眠りについていた。

 しかし、それでも沈黙は破られました。

 この舞台の最終幕を告げるように――――

 その言葉で幕は上がりました。

「時は満ち足りた」

 壇上のユダは大きな声を張り上げ、言葉を述べた。

「我らが呪われた肉体を手に入れてから七十年――――“キャメロット”が悲しみに暮れた、忌まわしい戦争から、もう百年以上の歳月が経つ。長かった。この時の流れが永遠に思えるほどに――――長かった」

 ユダは途方に暮れた瞳で、虚空を眺めた。

「だが、この永遠もようやく終焉を迎える。なぁ、アルトリウスよ――――ようやく私たちの待ち望んだ世界が、キャメロットの栄光が、この地に戻る。この世紀末の世界に、新たなる千年紀の鐘が――――今夜鳴り響く」

 ユダは夜の帳の下ろされた新月の空を眺め、一筋の涙を流した。

「“聖杯の乙女”よ――――」

 ユダがその名を呼ぶと、深い夜を映し出す大聖堂の中心に忽然とマリーが現れた。

「――――今から、汝の宿す“聖杯”を取り出す」

 その言葉が終わると、マリーの周りを取り囲む円を創るように――――十二人の白いローブを纏い、深くフードを被った者たちが忽然と現れた。

 そして一人のローブを纏った男の手には、ぼろ雑巾のようにぐったりとしたヨハンが意識を失って抱えられていた。

「――――ヨハンっ」

 マリーはヨハンの名を叫んだ。

「約束通り、命あるまま連れて来た。聖杯の乙女よ、この男に息があるのを確認するか?」

 ヨハンを抱えた男はマリーにそう告げ、マリーは黙ったままその問いに頷いた。
 ローブの男はヨハンを抱えたまま、マリーに向かってゆっくりと足を進めた。

「――――待て、ガラハッド」

 ユダは、ローブの男を言葉で制止しました。

「聖杯を取り出してからでもよいだろう。お前とて、この時をどれ程待ちわびたことか?」

「聖杯の乙女の杞憂が、儀式に影響しては困る――――直ぐ済むことだ」

 ガラハッドの言葉を聞き、即座に邪悪に笑みを浮かべたユダは、死神の表情を浮かばせてローブの男を凝視した。

「果たして、困るのは貴様か――――私たちか?」

「何を訳の分からぬことを言っている、さっさと済ませて終わりだ」

 ローブの男は再び足を進めた。

「さて、いつまでつまらぬ芝居を続ける気だ?」

 ユダの放つ背筋を凍らせ、絡みつく蛇のような言葉に――――ローブの男はマリーへと足を急がせる。しかし、ローブの男がマリーのそばへ寄ろうと駆け出すと地面が稲妻で帯電したように光を帯び、止む無くその場で動きを止めた。

 そうこうしている間に、マリーの周りには白いローブの男が二人、マリーを守るように立ちふさがる。マリーに駆け寄ろうとしたローブの男は、立ちふさがった男二人とユダを順に眺めた後、仕方なく被っているフードをゆっくりと脱いだ。

「ヨハン」

 そして、マリーは大きく首を振った。

 男がフードを脱ぐと、フードの男に抱えられていたヨハンは魔法が解け、元のガラハッドに戻り、そして脱いだフードの下から現れたのは、美しい銀の髪を靡かせ、妖しく輝く翡翠の瞳を持った魔法使いの顔だった。

 ヨハンが纏っている白いローブに手を触れると、ローブはいつの間にか黒衣のマントに変わり――――ヨハンの体から溢れる自らの魔力に、黒衣のマントは悠然と靡いていた。
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こちらの物語は、『小説家になろう』に投稿していたものをブログに掲載し直したものです。『小説家になろう』では最終回まで投稿しているので、気になったかたはそちらでもお読みいただけると嬉しいです。

 

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