マリーと魔法使いヨハン76話
076 勝利と敗北
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「芸がないね」
ヨハンは向かってくる光の斬撃に黒衣のマントを広げ、そしてマントの裾を掴むと、闘牛士のようにマントをひょいと構えた。
向かってくる斬撃は容赦なくヨハンを襲い――――ヨハンはその斬撃をマントで絡め取った。すると斬撃はマントの中に飲み込まれ、跡形もなく消え去ってしまった。
それを見たガラハッドは、一瞬、顔を顰めるが、直ぐに冷静さを取り戻し、すぐさま次の斬撃を放つ――――今度は立て続けに六回、ガラハッドは剣を勢い良く振り抜く。斬撃はマントを広げたヨハン目掛けて縦横斜め――――死角の無く、光の斬撃がヨハンに襲い掛かる。
ヨハンはそれを見て一歩下がり、今度は両手を広げて大きくマントを広げた。
すると斬撃はマントの中目掛けて、まるで吸い込まれるように次々と飛び込んでゆく。まるでヨハンの黒衣のマントの中には小さな宇宙が存在しているように、斬撃を飲み込んでもまるでびくともしなかった。
「――――次は、僕の番かな?」
ヨハンがそう言うと、飲み込んだはずの光の斬撃が、今度はマントの中から逆に飛び出し、ガラハッド目掛けて勢い良く襲い掛かった。
ガラハッドは驚きながらも、その斬撃に自らの斬撃で迎え撃ち、難なくそれを相殺してみせた。
「さすがだ、やはり先ほど命を奪っておくべきだった」
「確かに」
ヨハンは他人事のように言葉を返した。
「さて、ガラハッド、どうしてユダの言いなりになる? 君たちは本来、魔法使いじゃないはずだ。どうして禁術の力を借りてまで、偽りの生を受け入れてまで――――聖杯の力を必要とする?」
「一つ間違っている――――」
ガラハッドは穏やかな声と瞳でヨハンに言葉を返した。
「僕らは何も、ユダの言いなりになっている訳じゃない。僕らの意思とユダの意思は、一つだ。そして僕らの目的、そして魂も、常に一つだ。僕らは常に、一つの目的のためだけに行動している」
「目的とは?」
「ヨハン、大方君は、僕らが聖杯の力を使って“グラール”や“白獅子”に復讐を果たそうとか、世界を征服しようとか、安易に考えているのかもしれない――――だが違うよ、ヨハン」
ガラハッドは穏やかな表情のまま、遥か彼方を見つめた。
「全ては“キャメロット”のため――――そして、あの日々の栄光を取り戻すためさ」
「栄光を取り戻す?」
ヨハンは首を傾げた。
「君には分からないだろう? 一瞬にして全てを――――僕の全て、僕の世界を、僕たちの全てだった国と王を奪われた悲しみを。僕たちは、それを取り戻したいだけだ」
言葉を続けるにつれて、次第に激昂し始めたたガラハッドに、ヨハンは更に質問の刃を突き刺す。
「アルトリウス」
一番深い所まで刃が届いたのか――――ガラハッドは明らかに今までとは違う表情を浮かべた。そしてその瞳は、深く傷ついた憂いの色を浮かべていた。
「それは君たちの王、アルトリウスの事を言っているのか?」
ガラハッドの胸の奥、一番深い部分を抉るように、ヨハンは言葉の刃を深く突き刺す。
「軽々しく口にしてくれるなよ。アルトリウスは僕たちの全てだった。王という気質に最も愛された男――――王の中の王だ。僕らの意思も、アルトリウスも――――お前には、お前たちには決して理解できはしない」
ガラハッドからは先ほどまでの冷静さが消えさり、明らかに怒りをあらわにしていた。
「どうやら、当たりのようだ。キャメロットの少年王アルトリウスか? 興味深い人物だね」
「――――黙れ」
挑発するように言葉を投げかけるヨハンに、ついに我慢の限界に達したガラハッドは、勢い良く剣を振り降ろし、光の斬撃と共にヨハンに突進して行った。
ヨハンは斬撃をマントで跳ね返し、斬撃は逆にガラハッドを襲うが――――ガラハッドは何食わぬ顔でそれを相殺し、ヨハン目掛けて剣を振り下ろした。
ヨハンはそれを紙一重で交わし、即座に言葉を唱える。
そしてヨハンは唱えた言葉と共に後ろに飛び、六時の橋に着地する。
すると、ガラハッドの懐で小さな爆発が起こった。
ガラハッドはヨハンの攻撃を咄嗟に判断したのか、懐で腕を十字に構えて防御の体制を取り、何とか爆発を凌いだ。
「僕の魔法が眠りの魔法だけだと思ったかい? 言っておくが、僕は何をやらせても一流だよ――――“星屑の雨 ”」
その言葉と共に、ガラハッドの周りでいくつもの爆発が連鎖的に起こる。
「ガラハッド、君の考えは確かに理解できない。だが、僕にも僕の理 がある――――君たちを縛り付ける柵 を断ち切りたいのさ」
「綺麗ごとを抜かすな。私たちがどれだけこの世界を案じてきたと思う? 貴様が生まれる以前から、私はこの世界を案じてきた、私たちの柵を断ち切るだと――――貴様に何が出来る?」
「今から証明して見せるのさ」
ヨハンは瞳を鋭くして、斬撃と爆発で巻き起こった煙に目を凝らす。
すると、煙の中からローブを焦がしたガラハッドが勢い良く現れた。
そして、ヨハンが反応する間に距離を詰めたガラハッドは、俊敏に詰めの一撃を打った。
ガラハッドの白銀の剣がヨハンの脳天に向けて振り下ろされ、ヨハンは頭から真っ二つに割れてしまった。ガラハッドはしまったと顔を歪め、真っ二つになったヨハンを見据えるが、しかし、直ぐにガラハッドは異変に気がついた。
人を切ったというのにこの感触の無さ――――まるで煙を切ったようだった。
しかし、ガラハッドの考えは全くの見当違いと言う訳ではなかった、真っ二つになったヨハンの体から勢い良く煙が立ち昇り、煙はガラハッドの周囲に充満した。ガラハッドは素早くローブを口元に当て、煙を吸わぬように息を止めた。
「安心してくれ、それは眠りの煙なんかじゃないよ」
その声はガラハッドの後方でした。
ガラハッドは煙の中で懸命にヨハンの姿を探した。
そして煙が晴れると、ヨハンはガラハッドの直ぐ目の前にいた。ガラハッドは瞬間的に剣を振るうが「、ヨハンはそれを交わし、さらにヨハンは言葉を唱えた。
すると、ガラハッドは体の自由を奪われ、身動きが出来なくなった。
が、しかし――――
「うおおぉ」
と、激しい叫び声と共に、ガラハッドは持てる力を全て振り注ぎ、体中の力を集める。そしてガラハッドは見えない鎖を引きちぎり、目の前のヨハンの鳩尾に剣の柄で凄まじい一撃を食らわせた。
「――――カハッ、馬鹿な」
ガラハッドの抵抗が予定外だったヨハンは、あっと言う間に気を失い、地面に崩れ落ちるように気絶してしまった。
「はぁはぁ」と、ガラハッドは荒い息を吐き――――
「だから、何も変わらないと言っただろう――――アレクサンドリアの魔法使いヨハンよ」
動かなくなったヨハンに向けて言葉を落とした。
そして剣を再び腰の鞘に収めると、ガラハッドは動かなくなったヨハンを拾い上げ、再び来た道を後にした。
ヨハンは向かってくる光の斬撃に黒衣のマントを広げ、そしてマントの裾を掴むと、闘牛士のようにマントをひょいと構えた。
向かってくる斬撃は容赦なくヨハンを襲い――――ヨハンはその斬撃をマントで絡め取った。すると斬撃はマントの中に飲み込まれ、跡形もなく消え去ってしまった。
それを見たガラハッドは、一瞬、顔を顰めるが、直ぐに冷静さを取り戻し、すぐさま次の斬撃を放つ――――今度は立て続けに六回、ガラハッドは剣を勢い良く振り抜く。斬撃はマントを広げたヨハン目掛けて縦横斜め――――死角の無く、光の斬撃がヨハンに襲い掛かる。
ヨハンはそれを見て一歩下がり、今度は両手を広げて大きくマントを広げた。
すると斬撃はマントの中目掛けて、まるで吸い込まれるように次々と飛び込んでゆく。まるでヨハンの黒衣のマントの中には小さな宇宙が存在しているように、斬撃を飲み込んでもまるでびくともしなかった。
「――――次は、僕の番かな?」
ヨハンがそう言うと、飲み込んだはずの光の斬撃が、今度はマントの中から逆に飛び出し、ガラハッド目掛けて勢い良く襲い掛かった。
ガラハッドは驚きながらも、その斬撃に自らの斬撃で迎え撃ち、難なくそれを相殺してみせた。
「さすがだ、やはり先ほど命を奪っておくべきだった」
「確かに」
ヨハンは他人事のように言葉を返した。
「さて、ガラハッド、どうしてユダの言いなりになる? 君たちは本来、魔法使いじゃないはずだ。どうして禁術の力を借りてまで、偽りの生を受け入れてまで――――聖杯の力を必要とする?」
「一つ間違っている――――」
ガラハッドは穏やかな声と瞳でヨハンに言葉を返した。
「僕らは何も、ユダの言いなりになっている訳じゃない。僕らの意思とユダの意思は、一つだ。そして僕らの目的、そして魂も、常に一つだ。僕らは常に、一つの目的のためだけに行動している」
「目的とは?」
「ヨハン、大方君は、僕らが聖杯の力を使って“グラール”や“白獅子”に復讐を果たそうとか、世界を征服しようとか、安易に考えているのかもしれない――――だが違うよ、ヨハン」
ガラハッドは穏やかな表情のまま、遥か彼方を見つめた。
「全ては“キャメロット”のため――――そして、あの日々の栄光を取り戻すためさ」
「栄光を取り戻す?」
ヨハンは首を傾げた。
「君には分からないだろう? 一瞬にして全てを――――僕の全て、僕の世界を、僕たちの全てだった国と王を奪われた悲しみを。僕たちは、それを取り戻したいだけだ」
言葉を続けるにつれて、次第に激昂し始めたたガラハッドに、ヨハンは更に質問の刃を突き刺す。
「アルトリウス」
一番深い所まで刃が届いたのか――――ガラハッドは明らかに今までとは違う表情を浮かべた。そしてその瞳は、深く傷ついた憂いの色を浮かべていた。
「それは君たちの王、アルトリウスの事を言っているのか?」
ガラハッドの胸の奥、一番深い部分を抉るように、ヨハンは言葉の刃を深く突き刺す。
「軽々しく口にしてくれるなよ。アルトリウスは僕たちの全てだった。王という気質に最も愛された男――――王の中の王だ。僕らの意思も、アルトリウスも――――お前には、お前たちには決して理解できはしない」
ガラハッドからは先ほどまでの冷静さが消えさり、明らかに怒りをあらわにしていた。
「どうやら、当たりのようだ。キャメロットの少年王アルトリウスか? 興味深い人物だね」
「――――黙れ」
挑発するように言葉を投げかけるヨハンに、ついに我慢の限界に達したガラハッドは、勢い良く剣を振り降ろし、光の斬撃と共にヨハンに突進して行った。
ヨハンは斬撃をマントで跳ね返し、斬撃は逆にガラハッドを襲うが――――ガラハッドは何食わぬ顔でそれを相殺し、ヨハン目掛けて剣を振り下ろした。
ヨハンはそれを紙一重で交わし、即座に言葉を唱える。
そしてヨハンは唱えた言葉と共に後ろに飛び、六時の橋に着地する。
すると、ガラハッドの懐で小さな爆発が起こった。
ガラハッドはヨハンの攻撃を咄嗟に判断したのか、懐で腕を十字に構えて防御の体制を取り、何とか爆発を凌いだ。
「僕の魔法が眠りの魔法だけだと思ったかい? 言っておくが、僕は何をやらせても一流だよ――――“
その言葉と共に、ガラハッドの周りでいくつもの爆発が連鎖的に起こる。
「ガラハッド、君の考えは確かに理解できない。だが、僕にも僕の
「綺麗ごとを抜かすな。私たちがどれだけこの世界を案じてきたと思う? 貴様が生まれる以前から、私はこの世界を案じてきた、私たちの柵を断ち切るだと――――貴様に何が出来る?」
「今から証明して見せるのさ」
ヨハンは瞳を鋭くして、斬撃と爆発で巻き起こった煙に目を凝らす。
すると、煙の中からローブを焦がしたガラハッドが勢い良く現れた。
そして、ヨハンが反応する間に距離を詰めたガラハッドは、俊敏に詰めの一撃を打った。
ガラハッドの白銀の剣がヨハンの脳天に向けて振り下ろされ、ヨハンは頭から真っ二つに割れてしまった。ガラハッドはしまったと顔を歪め、真っ二つになったヨハンを見据えるが、しかし、直ぐにガラハッドは異変に気がついた。
人を切ったというのにこの感触の無さ――――まるで煙を切ったようだった。
しかし、ガラハッドの考えは全くの見当違いと言う訳ではなかった、真っ二つになったヨハンの体から勢い良く煙が立ち昇り、煙はガラハッドの周囲に充満した。ガラハッドは素早くローブを口元に当て、煙を吸わぬように息を止めた。
「安心してくれ、それは眠りの煙なんかじゃないよ」
その声はガラハッドの後方でした。
ガラハッドは煙の中で懸命にヨハンの姿を探した。
そして煙が晴れると、ヨハンはガラハッドの直ぐ目の前にいた。ガラハッドは瞬間的に剣を振るうが「、ヨハンはそれを交わし、さらにヨハンは言葉を唱えた。
すると、ガラハッドは体の自由を奪われ、身動きが出来なくなった。
が、しかし――――
「うおおぉ」
と、激しい叫び声と共に、ガラハッドは持てる力を全て振り注ぎ、体中の力を集める。そしてガラハッドは見えない鎖を引きちぎり、目の前のヨハンの鳩尾に剣の柄で凄まじい一撃を食らわせた。
「――――カハッ、馬鹿な」
ガラハッドの抵抗が予定外だったヨハンは、あっと言う間に気を失い、地面に崩れ落ちるように気絶してしまった。
「はぁはぁ」と、ガラハッドは荒い息を吐き――――
「だから、何も変わらないと言っただろう――――アレクサンドリアの魔法使いヨハンよ」
動かなくなったヨハンに向けて言葉を落とした。
そして剣を再び腰の鞘に収めると、ガラハッドは動かなくなったヨハンを拾い上げ、再び来た道を後にした。
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こちらの物語は、『小説家になろう』に投稿していたものをブログに掲載し直したものです。『小説家になろう』では最終回まで投稿しているので、気になったかたはそちらでもお読みいただけると嬉しいです。