マリーと魔法使いヨハン67話
067 待ってるから
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「キャメロットよ――――私は帰ってきた」
猛々しく、そして厳かにユダは声を張り上げた。
マリーを含め、大聖堂に集まった全ての者が、再び外の景色を映し出した大聖堂から、この超常的な光景を眺めていた。
“グランド・エア”の中心――――竜巻の帳 を抜けると、そこはとても大きな嵐の目だった。
三百六十度、見渡す限りの全てが大気の壁で囲まれ、まるで白い筒でキャメロットを丸々覆ったように、その大気の筒は遥か天上まで伸びていた。筒の先には金色の太陽が顔を覗かせ、燦燦とした陽光でキャメロットを照らし出している。
まるで照明が当たった舞台のように、その場所は光り輝いていた。
「これが、キャメロット?」
マリーは、恐れ多い言葉のようにその名を口にした。
「そう、これがキャメロットだ」
マリーは足元を眺めた。
そこには、かつて光り輝く栄光があったと思われる場所が映し出されている―――――しかし、そこにはかつての栄光など微塵も無く、ただ岩と砂に覆われた緑一つない荒地があるだけだった。
そしてキャメロットの中心には、まるで隕石が衝突したのではと思えるほどの、深く暗い大穴が存在した。まるで奈落の底にまで延々と繋がっていそうなその空洞は、まるでマリーを誘 うように、その瞳と心を釘付けにした。
「ようこそ、マリー・キャロル。いや聖杯に選ばれし――――“聖杯の乙女”よ」
いつの間にかマリーの目の前に現れていたユダは、マリーにとっておなじみとなった枕詞 を、跪 いて述べた。
「時期、新月が昇れば新たなる時代の幕開けだ。そして、かつての栄光が再びこの地に降り注ぐだろう。私たちも、準備に取り掛からねばならない。それまで、どうかゆっくりと寛 いでくれたまえ。これが終われば、無事にあなたをボロニアまで送り返そう」
跪いたまま、再びそう約束したユダ――――しかしマリーは、何かを感じ取ったかのように、ふと顔を上げた。まるで一陣の風がマリーの体を突き抜けたように、視線を空へと泳がせる。そして視線の先に、何があるのかを知っていたかのように、マリーは迷わずその空間を見つめた。
そこには、マリーが待ち望み、待ち侘びていたものが現れた。
グランド・エアを突き抜けて、真直ぐマリーの瞳の奥に向かってくる――――箒に乗った魔法使いが。
「――――ヨハンッ」
マリーは叫んだ。
ヨハンは雨に打たれてびしょ濡れになった体に鞭を打ち、必死にアルバトロスとの距離を縮めていた。
「まさか、ここまで――――」
ユダは感心するように言葉発し、瞳を見開いているマリーに視線を移した。
「ヴィクルト、マリーを別の部屋へ」
その言葉を聞いたマリーは、視線をヨハンからユダへと移した。
「ヨハンに手を出さないで」
マリーはユダを見つめて言う。
「キャメロットとこの魂にかけて――――約束しよう。少しばかり痛い思いをするかもしれないが、命までは奪わない」
「もしも――――」
マリーは声を潜めて言う。
「もしも、ヨハンに何かあったら、聖杯は絶対にあなたたちの物にはならないと思って」
凄みのある口調で告げたマリーに、ユダは胸に手を当て――――
「仰せのままに――――我が光よ」
そして、不敵に微笑んでみせた。
マリーは、ユダの瞳の奥を鋭い目つきで射抜くように見つめる。
ユダの真紅の瞳は翳ることなく、その言葉の真偽を揺らめく炎の奥に隠していた。
マリーはそれでもと、ユダに釘を刺すように視線を浴びせかけた。
強い意志のこもった視線に、ユダは思わず視線をヴィクルトへと移し、何かを促した。
「さぁ、行きましょう――――マリーさん」
促されるままにヴィクルトは口を開き、マリーはヴィクルトに連れられて大聖堂を後にした。
マリーは大聖堂を出る瞬間、再びヨハンに視線を戻した。
ヨハンは今も懸命に、アルバトロスを追っていた。
そして、マリーは真直ぐヨハンの瞳を見つめ――――
「待ってるから」
と、囁くように言った。
そして、小指に繋がれた絆の糸を眺め――――
マリーは大聖堂を後にしました。
猛々しく、そして厳かにユダは声を張り上げた。
マリーを含め、大聖堂に集まった全ての者が、再び外の景色を映し出した大聖堂から、この超常的な光景を眺めていた。
“グランド・エア”の中心――――竜巻の
三百六十度、見渡す限りの全てが大気の壁で囲まれ、まるで白い筒でキャメロットを丸々覆ったように、その大気の筒は遥か天上まで伸びていた。筒の先には金色の太陽が顔を覗かせ、燦燦とした陽光でキャメロットを照らし出している。
まるで照明が当たった舞台のように、その場所は光り輝いていた。
「これが、キャメロット?」
マリーは、恐れ多い言葉のようにその名を口にした。
「そう、これがキャメロットだ」
マリーは足元を眺めた。
そこには、かつて光り輝く栄光があったと思われる場所が映し出されている―――――しかし、そこにはかつての栄光など微塵も無く、ただ岩と砂に覆われた緑一つない荒地があるだけだった。
そしてキャメロットの中心には、まるで隕石が衝突したのではと思えるほどの、深く暗い大穴が存在した。まるで奈落の底にまで延々と繋がっていそうなその空洞は、まるでマリーを
「ようこそ、マリー・キャロル。いや聖杯に選ばれし――――“聖杯の乙女”よ」
いつの間にかマリーの目の前に現れていたユダは、マリーにとっておなじみとなった
「時期、新月が昇れば新たなる時代の幕開けだ。そして、かつての栄光が再びこの地に降り注ぐだろう。私たちも、準備に取り掛からねばならない。それまで、どうかゆっくりと
跪いたまま、再びそう約束したユダ――――しかしマリーは、何かを感じ取ったかのように、ふと顔を上げた。まるで一陣の風がマリーの体を突き抜けたように、視線を空へと泳がせる。そして視線の先に、何があるのかを知っていたかのように、マリーは迷わずその空間を見つめた。
そこには、マリーが待ち望み、待ち侘びていたものが現れた。
グランド・エアを突き抜けて、真直ぐマリーの瞳の奥に向かってくる――――箒に乗った魔法使いが。
「――――ヨハンッ」
マリーは叫んだ。
ヨハンは雨に打たれてびしょ濡れになった体に鞭を打ち、必死にアルバトロスとの距離を縮めていた。
「まさか、ここまで――――」
ユダは感心するように言葉発し、瞳を見開いているマリーに視線を移した。
「ヴィクルト、マリーを別の部屋へ」
その言葉を聞いたマリーは、視線をヨハンからユダへと移した。
「ヨハンに手を出さないで」
マリーはユダを見つめて言う。
「キャメロットとこの魂にかけて――――約束しよう。少しばかり痛い思いをするかもしれないが、命までは奪わない」
「もしも――――」
マリーは声を潜めて言う。
「もしも、ヨハンに何かあったら、聖杯は絶対にあなたたちの物にはならないと思って」
凄みのある口調で告げたマリーに、ユダは胸に手を当て――――
「仰せのままに――――我が光よ」
そして、不敵に微笑んでみせた。
マリーは、ユダの瞳の奥を鋭い目つきで射抜くように見つめる。
ユダの真紅の瞳は翳ることなく、その言葉の真偽を揺らめく炎の奥に隠していた。
マリーはそれでもと、ユダに釘を刺すように視線を浴びせかけた。
強い意志のこもった視線に、ユダは思わず視線をヴィクルトへと移し、何かを促した。
「さぁ、行きましょう――――マリーさん」
促されるままにヴィクルトは口を開き、マリーはヴィクルトに連れられて大聖堂を後にした。
マリーは大聖堂を出る瞬間、再びヨハンに視線を戻した。
ヨハンは今も懸命に、アルバトロスを追っていた。
そして、マリーは真直ぐヨハンの瞳を見つめ――――
「待ってるから」
と、囁くように言った。
そして、小指に繋がれた絆の糸を眺め――――
マリーは大聖堂を後にしました。
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こちらの物語は、『小説家になろう』に投稿していたものをブログに掲載し直したものです。『小説家になろう』では最終回まで投稿しているので、気になったかたはそちらでもお読みいただけると嬉しいです。