マリーと魔法使いヨハン47話
047 空の女神と航空式
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王都の領空を抜けて凄まじい早さで雲をかき分ける光景を、操船室の椅子に腰をかけたヨハンは上機嫌で眺めていた。
王都を抜けて早一刻――――ヨハンとニーズホッグのメンバーを乗せた飛空挺“クライスト”は、何の問題もなく航空を続けている。しかし、椅子に腰を下ろして悠々と過ごしているのはヨハンだけで、ニーズホッグのメンバーは皆忙しなく動き回っていた。
「おい、針路はしっかり保っておけよ」
と、トール。
「了解」
と、チェシャ。
「高度下が少しがってますぜ」
と、マッドが叫べば――――
「おい、しっかり舵をとらねぇか」
と、ホズが怒鳴りつけ、
「なかなかじゃじゃ馬ですわ、こいつ」
と、馴れぬ船の操縦に、ドーは悪戦苦闘していました。
「こちら見張り台――――鳥一匹見当たりません」
と、管を通してハッターの声が操船室に響き――――
「了解」
と、トールが答える。
ハンプティとダンプティは、たくさんのメーターやグラフ、それに燃料計などがついている操船室右隅の機械に対峙して、難しい顔でせっせと記録をつけていた。
「よし。このままのこのスピードを維持できりゃ、相手の最高速度を計算しても――――」
トールは部屋の中央に設置された大きな黒い鉄の机、その上に開かれた縦横に升目 状に線の入った地図を眺めて、満足げに頷いた。
「かなりギリギリだが、“アルバトロス”が“グラール”の領空に入る前に、なんとかやっこさんの尻尾を掴める」
トールの言葉を聞き終えると、ヨハンは何の前触れもなく立ち上がった。そして黒いマントを靡かせながら、舵の元まで向かい口を開いた。
「トール、全員を集めてくれ」
トールは言われた通り、全員を操船室に集めた。
「全員集まったぞ」
ヨハンは頷きました。
「これで全員揃ったね――――お帰りロキ」
ヨハンは皆の中心、何もない虚空の空間に瞳を向ける。
すると――――
「ああ、待たせたようだな」
と、何もない空間から声が響いた。
集まった全員がその虚空に視線を向けると、空間はまるで蜃気楼のようにゆらゆらと揺れて、揺れた空間が突然、竜巻が起きたかのように捩 れた。捩れた空間の狭間に黒い亀裂が走り、その中から黒い猫が姿を現た。
黒い猫は紫色に発光し、背中には光の翼を生やしていた。
「うまくやってくれたね、アンセムの相手は大変だったろう?」
ヨハンは翡翠の瞳を無邪気に光らせ、美しい銀髪の襟足を手で遊ばせながら、ようやく返ってきた相棒に尋ねた。
「ああ、少々骨が折れた」
ロキは短く告げると、ヨハンの肩の上に腰を下ろした。
「さぁ、全員が揃った所で“クライスト”の航空式といこうか」
ヨハンがそう告げると、ハッターはどこから用意したのか、待ってましたとばかりにワイン樽を持って現れた。
そして一同は、澄み切った青い空が一番よく見える飛空挺の外、クライストの先端のデッキに場所を移した。見上げれば、包み込まれてしまいそうな青く澄み切った青空がどこまでも続き、辺りには白い雲が一面、青空にベールを被せたように浮かんでいる。
ハッターは鏡のよう美しいデッキの上にワイン樽を置いた。そして、その回りをヨハンとロキ、ニーズホッグのメンバが取り囲み、全員が背筋を延ばしてワイン樽に向かい合った。まるで神聖な儀式でも執り行うかのような真剣な表情で、一同は空と対峙した。
航空式と言うのは、飛空挺や飛行船などの空を飛ぶ乗り物が、一番初めに空を飛んだ時に行うもので、これからこの船が空を飛ぶ事と、これから先の航空が無事に終わることを空の女神に許してもらう大切な儀式のことを言う。
昔から空には女神が住んでいて、その女神に嫌われると船が落ちると伝えられており、空の船乗りたちはこの儀式を欠かさない決まりがあった。
しかし、ヨハンが口を開けて航空式をはじめようとした時――――
デッキの入り口から、別の男の声が響いた。
「呑気なものだな――――凱旋式はめちゃくちゃだというのに」
王都を抜けて早一刻――――ヨハンとニーズホッグのメンバーを乗せた飛空挺“クライスト”は、何の問題もなく航空を続けている。しかし、椅子に腰を下ろして悠々と過ごしているのはヨハンだけで、ニーズホッグのメンバーは皆忙しなく動き回っていた。
「おい、針路はしっかり保っておけよ」
と、トール。
「了解」
と、チェシャ。
「高度下が少しがってますぜ」
と、マッドが叫べば――――
「おい、しっかり舵をとらねぇか」
と、ホズが怒鳴りつけ、
「なかなかじゃじゃ馬ですわ、こいつ」
と、馴れぬ船の操縦に、ドーは悪戦苦闘していました。
「こちら見張り台――――鳥一匹見当たりません」
と、管を通してハッターの声が操船室に響き――――
「了解」
と、トールが答える。
ハンプティとダンプティは、たくさんのメーターやグラフ、それに燃料計などがついている操船室右隅の機械に対峙して、難しい顔でせっせと記録をつけていた。
「よし。このままのこのスピードを維持できりゃ、相手の最高速度を計算しても――――」
トールは部屋の中央に設置された大きな黒い鉄の机、その上に開かれた縦横に
「かなりギリギリだが、“アルバトロス”が“グラール”の領空に入る前に、なんとかやっこさんの尻尾を掴める」
トールの言葉を聞き終えると、ヨハンは何の前触れもなく立ち上がった。そして黒いマントを靡かせながら、舵の元まで向かい口を開いた。
「トール、全員を集めてくれ」
トールは言われた通り、全員を操船室に集めた。
「全員集まったぞ」
ヨハンは頷きました。
「これで全員揃ったね――――お帰りロキ」
ヨハンは皆の中心、何もない虚空の空間に瞳を向ける。
すると――――
「ああ、待たせたようだな」
と、何もない空間から声が響いた。
集まった全員がその虚空に視線を向けると、空間はまるで蜃気楼のようにゆらゆらと揺れて、揺れた空間が突然、竜巻が起きたかのように
黒い猫は紫色に発光し、背中には光の翼を生やしていた。
「うまくやってくれたね、アンセムの相手は大変だったろう?」
ヨハンは翡翠の瞳を無邪気に光らせ、美しい銀髪の襟足を手で遊ばせながら、ようやく返ってきた相棒に尋ねた。
「ああ、少々骨が折れた」
ロキは短く告げると、ヨハンの肩の上に腰を下ろした。
「さぁ、全員が揃った所で“クライスト”の航空式といこうか」
ヨハンがそう告げると、ハッターはどこから用意したのか、待ってましたとばかりにワイン樽を持って現れた。
そして一同は、澄み切った青い空が一番よく見える飛空挺の外、クライストの先端のデッキに場所を移した。見上げれば、包み込まれてしまいそうな青く澄み切った青空がどこまでも続き、辺りには白い雲が一面、青空にベールを被せたように浮かんでいる。
ハッターは鏡のよう美しいデッキの上にワイン樽を置いた。そして、その回りをヨハンとロキ、ニーズホッグのメンバが取り囲み、全員が背筋を延ばしてワイン樽に向かい合った。まるで神聖な儀式でも執り行うかのような真剣な表情で、一同は空と対峙した。
航空式と言うのは、飛空挺や飛行船などの空を飛ぶ乗り物が、一番初めに空を飛んだ時に行うもので、これからこの船が空を飛ぶ事と、これから先の航空が無事に終わることを空の女神に許してもらう大切な儀式のことを言う。
昔から空には女神が住んでいて、その女神に嫌われると船が落ちると伝えられており、空の船乗りたちはこの儀式を欠かさない決まりがあった。
しかし、ヨハンが口を開けて航空式をはじめようとした時――――
デッキの入り口から、別の男の声が響いた。
「呑気なものだな――――凱旋式はめちゃくちゃだというのに」
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こちらの物語は、『小説家になろう』に投稿していたものをブログに掲載し直したものです。『小説家になろう』では最終回まで投稿しているので、気になったかたはそちらでもお読みいただけると嬉しいです。