マリーと魔法使いヨハン42話
042 マリーを救出するのは不可能だ。諦めよう
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夜が更に深け、次第に辺りが白み始めたころだった。不意に真夜中の沈黙を破るように、ヨハンのアジトの扉が力強く開かれた。
机の上で背筋をピンと延ばし、扉を睨みつけていたロキは、まるで来訪者が訪れるのを待っていたように、ただ平然とし扉の奥から来訪者が現れるのを待っていた。
ロキは訪れた来訪者を見据え、アメジストの瞳を細めて静かに口を開いた。
「遅かったな?」
来訪者は力なく肩をすくめて、机の上に腰を下ろした。
「まずいことになった――――“魔法省”が動き出してる」
「まぁ、そうだろう。あれだけ激しく魔法を使えば、いくら怠慢な“魔法省”も気づくだろう」
来訪者はじれたように顔を顰め、苛立ちを押さえきれずいた。
「マリーを救出するのは不可能だ。諦めよう」
その言葉を聞いてもロキはわずかにも動揺せず、平然と来訪者の話を聞いていた。
「今更だな?」
「今更だって?」
来訪者は強い口調で反論した。
「私は、何度も警鐘を鳴らしてきたはずだ? なぜ貴方ほど者が意を唱えない――――ロキ、貴方なら分かっているはずだろう? この件が、いかに無謀で愚かなことかを」
来訪者の言葉を聞き終えると、ロキは眼差しを緩めた。
そしてロキは、その声を少しだけ穏やかにして言葉を紡いだ。
「お前も分かっているはずだろう? 私は相棒のすることに迷いがないのなら、たろえどんなに愚かで、無謀な道だろうと付き従うと――――あの男の為ならば、私はこの魂を捧げると、この間の夜も伝えたはずだが?」
そこまで言い終えると、ロキは言葉を一旦止めた。
そして手ごたえを確かめるように、ロキは来訪者を見据える
来訪者はとても悲しそうに、その顔に影を落としていた。
「だが今のお前の言葉を聞いたら――――なおさら、ヨハンはマリーを助け出すと言って聞かないだろうな。私の相棒はそういう男だ」
「知っているよ。初めて出会った時から、あいつのそういう所が気に食わなかった―――――自信と確信に満ち溢れ、それを軽々とやりこなしてしまう才能。そして、無理や無謀、そう言われると、なおさらやる気をだす皮肉れた性格。全てが気に食わない。初めから分かっていたが、私にできるのはここまでだ。好きにやるがいい――――私は、どうなっても知らないからな?」
残念そうに、来訪者は言った。
皮肉を込めて口に出した言葉が彼の本心ではないことを、ロキは十分に分かっていた。
全てを告げ終え、もはや自分にできることは何もないと悟った魔法使い――――海のように青く澄んだ瞳をした来訪者は、背を向き扉へと向かった。
「アンセム――――済まない」
「言っただろう? 私にできるのはここまでだと――――明日は国家魔法使いとして行動する」
アンセムは背を向けたまま厳しい口調で言うと、そのまま白み始めた外の世界に消えて行った。
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こちらの物語は、『小説家になろう』に投稿していたものをブログに掲載し直したものです。『小説家になろう』では最終回まで投稿しているので、気になったかたはそちらでもお読みいただけると嬉しいです。