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マリーと魔法使いヨハン34話

マリーと魔法使いヨハン(完結済み) 小説

034 三大権力

 

kakuhaji.hateblo.jp

 第1話はこちらから読めます ↑

 

 町をすっぽり包んでいた黒い雲は、今では嘘のように去り――――雨は何の前触れもなく止んでいた。まばらになった雲間から星々が顔を覗かせ、月が丘の上の大木を優しく照らしていた。

 マリーとヨハンは、二人で大木に背をつけて座り込んでいた。寄り添うように肩を合わせて、静寂に耳をすませている。

 腰を降ろす前、ヨハンはマリーの左足の傷と破れたワンピースを魔法で直し、もう一度深く謝罪した。

 それを聞いたマリーは――――

「そんなこと、もう、どうでもいいの」

 と、笑顔で答えた。

「私ね――――」

 大樹に背を預けたマリーが、静寂を破って言葉を紡いだ。

「母が死ぬ前に、約束したの――――もう泣かないって。笑顔だけを見せるって。それから、一度も泣いたことなかったの。どんなに辛くて悲しくても」

 マリーは過去を懐かしむように遠くを眺めた。

「でも今日、約束を破っちゃった。あの日、母と最後に言葉を交わした日から、初めて涙を流して、私すごく悲しかった。世界が終わっちゃうかと思うぐらい。だって、それだけが、私と母を繋ぎ止めておく絆だと思ってたから。だけど、違った――――」

 マリーは首を振り、胸に光るメダルのネックレスに目を落とした。

「きっと、母はこんなことを願って私と約束をしたんじゃないと思う。それが今日、やった分かった気がするの。きっと、私も目を背けていたのね」

 マリーは笑顔でヨハンに語りかけました。

「本当は私ね、あなたに感謝してるの。だってヨハンに会わなきゃ、この町にも来れなかったし、色々なことが分からないままだった。それは危ない目にも合ったし、辛い思いもしたけど――――それをひっくるめても、十分釣りがでるくらい、ヨハンに出会ったことに感謝してるの。だから――――」

 マリーは、決然とした面持ちで言葉を続ける。

「話してほしいの。もっと、ヨハンのことを。あなたの言う理や、あなたの知っている真実を――――今なら全て受け入れられる気がするから」

 ヨハンは閉じていた瞳を開いて、永い眠りから覚めたようにマリーを見つめた。

「ああ、そうだね。僕の知っている全てを話すよ。まずは、この物語の始まりから――――」

 ヨハンも決然とした面持ちで言葉を続ける。

「ユグドレイシア」

 ヨハンはその名を懐かしむように呼んだ。

「ユグドレイシア――――僕を拾ってくれた魔女の名だ。彼女は、伝説と呼ばれるほどの大魔女だった。“獅子の戦”を終決させるに至った、四人の魔法使いの一人だった」

「“獅子の戦”って――――だって“獅子の戦”は“キャメロットの悲劇”で」

 マリーは思わず口を挟んだ。

 マリーの知っている“獅子の戦”は―――――俗に“キャメロットの悲劇”と呼ばれるできごとで終決したと言われ、広く知られていたからだった。おそらく大陸中の誰に聞いても、マリーと同じことを答えただろう。

キャメロットの悲劇”――――それは“キャメロット”と呼ばれた国で起こった、大規模な爆発のことだった。

“黒獅子”と“白獅子”、両方の国のちょうど中心に位置したキャメロットは、“獅子の戦”の最終決戦の地として、両軍がもてる武力と死力を全て尽くして、その陣地を争いあった地だった。当時、このキャメロットを取ったほうがこの戦争の勝者と言われるほど、重要視されていた国だった。

 キャメロットでの戦争は長く続き、お互いが一歩も引かない状況に、戦況は泥沼と化していた。そんな時に起こったのが“キャメロットの悲劇”だった。詳しくは話されていないが、両軍が開発した新兵器を投入したことで大規模な爆発が起こり、キャメロットはおろか、その辺り一帯の大陸までを吹き飛ばして、そこには塵と藻屑しか残らなかった。そして事態を重く見た両軍は、これ以上の被害や犠牲者を出さないために和平での解決に至り長きに渡る戦争は終結したというのが、マリーを初めとした大陸に暮らす人々が聞かされている“獅子の戦”だった。

「ああ。“キャメロットの悲劇”は真実だけど、爆発を起こしてキャメロットを消し去ったのは兵器じゃない――――魔法使い、そして魔法石なんだ」

 マリーは驚愕の表情でヨハンを見つめた。

「あの戦争は、初めて魔法使いがこの世の理に背いて――――人の欲望に手を貸した戦争なんだ」

 ヨハンは、深く憂いに満ちた表情を浮かべた。

「二つの魔法石――――“ソル”と“マーニ”。“双子の魔石”と言われた二つの魔法石は、黒獅子と白獅子の二つの軍に、別れて持ち込まれた。そして魔法石を兵器に仕立てた黒獅子と白獅子は、キャメロットの地に持ち込んだ。もちろん兵器に仕立てたのは魔法使いだ。そしてお互いの魔法石が、あのキャメロットの地で共鳴し、起きたのが“カタストロフィ”」

「“カタストロフィ”?」

「そう。魔力の暴走の延長にあるのが“カタストロフィ”。制御できない魔力が暴走し、大規模な爆発を起こすんだ。その“カタストロフィ”を“キャメロットの悲劇”と呼び、魔法石の存在や、魔法使いが裏で動いていたことを隠蔽するために、キャメロットに真実を封じ込めた―――――これが“獅子の戦”の真実だ」

 マリーは思いもよらない真実を前に――――困惑しながらも、ヨハンの言葉の続きを黙って待ったいた。

「“カタストロフィ”が起きた後も、戦争を続けようとしているものたちもいたんだ。そのものたちを説き伏せせ、終戦までの道筋を立てたのが――――四人の魔法使いだった。そして、両国はなんとか和平での解決に至った」

「それが、あなたの先生?」

 ヨハンは頷く。

「先生は、初めから反対していたんだ。魔法使いが戦争に参加することなんて、理に反しているって。浮世の因果に、魔法使いは手を貸してはいけないって――――先生は僕にいつも言っていた。結果、多くの魔法使いや兵士、関係のないキャメロットの市民までを巻き込んで、あの辺り一帯は消滅した。そして、その戦争の副産物として産まれたのが――――“世界政府”、“魔法省”、“ヴァルハラ評議会”の“三大権力”」

「“三大権力”?」

「そう。“獅子の戦”の終戦後、魔法使いの危険性を実感した国々が発足して立ち上げた国際機関――――それが“世界政府”、“魔法省”、“ヴァルハラ評議会”の三機関。その機関から産まれたのが、“国家魔法使い制度”や“魔法法律”など、簡単に言えば魔法使いを“世界政府”で管理しようと制度なんだ。“魔法省”は日々新たに魔法法律を増やし続け、今では魔法使いは空を飛ぶことすら許されない。“ヴァルハラ議会”は二度と戦争に魔法使いが使われぬように、各国から選ばれた十三人の議員であれやこれやと魔法使いの権利について議論を交わしあっている」

「魔法使いの平和のための機関なのね?」

「表向きはね」

「表向きって?」

「平和のためなんて言っているが、本当は自分たちの国が平和なら、他の国なんてどうでもいいのさ。僕だって、始めは魔法使いの自由がどんどん奪われていても、魔法使いが二度と戦争の道具として使われないのなら、それも構わないと思った。でも、真実は違う――――今でも魔法使いは戦争の道具として使われている」

 ヨハンは声を荒げ、忌ま忌ましく言い放った。

「今回の“バグラ侵攻”が――――まさにそのいい例さ」

「“バグラ侵攻”って、あれは異教徒が支配しているって?」

「あの時は、世界政府が公表していることをそのまま口にしただけさ」

「嘘ってこと?」

「まぁ、そう言うことかな」

 ヨハンは肩をすくめた。

「とにかく、真実はそうじゃない。異教徒の話や、世界に平和を広げるなんてことは、政府が流した自分たちに都合のいい情報なんだ。そもそも国や大陸、文化が違えば、思想や価値観が違うのは当たり前だろう? それを世界政府は邪教呼ばわりして、あの大陸に責めるきっかけをつくったんだ」

「でも、どうして?」

「そのほうが、バグラを侵略しやすいからさ。異大陸は異教徒に支配されていて、大陸に暮らす自分たちにも危険が降りかかるかもしれないって思わせたほうが、みんな納得するだろう?」

「でも、どうして? どうそて、そんなバグラを侵略したがるの? 危険じゃないんでしょ?」

 一向に出口の見えないマリーは、困惑して尋ねた。

「“魔法石”さ。はじめに出会った時、列車の中で魔法石の話をしただろう?」

 マリーはその時の話を思い出そうと、頭を悩ませた。
 ヨハンはマリーの言葉を待たずに言葉を進める。

「“魔法石”と言うのは、今までの化石燃料と違って、エネルギーの量が桁違いに多いんだ。魔法使いが少し手を加えれば、半永久的にエネルギーを放出し続けることができる。そんな便利で理想的な代物を、どこの国も喉から手が出るほど欲しいに決まっている。だけど質の良い魔法石は数が少ない上に、希少価値がものすごく高くて、簡単に手に入る物じゃない。魔法石を使った“魔石機関”が発達していく中、魔法石だけが圧倒的に足りていないんだ。そこで目をつけたのが、異大陸である“バグラ”だった。先遣隊の調査の結果、バグラには大量の魔法石の原石が眠っていることが分かった。だから、何がなんでもバグラを侵略して、あの大陸を占領する必要があった。嘘の情報を流してでも、バグラを侵略したのさ」

 ヨハンが言い終えると、マリーは強い衝撃を受けたように表情を強ばらせていた。
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こちらの物語は、『小説家になろう』に投稿していたものをブログに掲載し直したものです。『小説家になろう』では最終回まで投稿しているので、気になったかたはそちらでもお読みいただけると嬉しいです。

 

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