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マリーと魔法使いヨハン9話

009 パンとチーズとバスソルト

 

kakuhaji.hateblo.jp

 第1話はこちらから読めます ↑

 

 その夜、マリーはバスタブに溜めたお湯に肩まで浸かりながら、ようやく今までの疲れをきれいに流していた。

「あぁ、気持ちいい」

 マリーの声は浴室に響き渡る。

 浴室は白いタイルと、ラベンダーの強い香りに包まれていた。マリーが入れ過ぎてしまったバスソルトのせいなのだが、マリーははじめて使用するバスソルトに目を輝かせ、そして珍しいからと、ついついそれを入れ過ぎてしまったのだった。

 マリーは浴室を漂う湯気をうつろな瞳で眺め、自分自身も漂う湯気のような気持だった。

「私、大丈夫だよね?」

 マリーは胸元に光る、金色のメダルがついたネックレスを強く握った。

 そのメダルのネックレスは、マリーが小さい時に母親に買ってもらったおもちゃのネックレスだった。

 マリーの小さな声は漂う湯気の中に溶け込こみ、消えていった。しかしマリーの不安までは消えず、マリーは波立つ紫色のお湯を眺め、自分の心の中も同じように波立っているのを感じていた。

 ――――パンッ。

 マリーは自分の両頬を手のひらで強く叩き、大きく頭を振ってから浴室を後にした。

「どうだ、疲れはとれたか?」

 マリーの足元から、低い声が聞こえて来ました。

「ええ、いいお湯だったわよ。ロキは入らないの?」

 マリーは、ロキが「これを着るといいだろう」と出してくれた、ぶかぶかのパジャマを引きずりながら尋ねた。

 マリーはヨハンのパジャマを借りているということに、少しだけ複雑な気持ちになったが、それは気にしないことにした。

「私はお湯が苦手だ」

 足元の黒猫は短く答えた。

 マリーは椅子に腰掛け、それを追うようにロキも机の上に乗った。

「マリー、腹が空いたのならキッチンにあるパンとチーズを食べるといい」

 マリーは立ち上がり、キッチンを物色してみた。

「食べられそうなものが何もないのね?」

 マリーは言われた通りにパンとチーズを持って席に戻り、パンとチーズを半分ロキに差し出した。

「ヨハンは料理が一切できない。だから、私たちはいつもパンとチーズだ」

 マリーは驚いた。

「うそ、まいにち同じものを食べているの?」

 ロキはチーズを齧るのをやめて口を開きました。

「そうだな」

「飽きないの?」

「私はミルクとワインがあれば大丈夫だ。それに、ヨハンはほとんど毎日外食だからな」

「猫のくせにワインを飲むなんて贅沢なのね。それに魔法使いもいいご身分みたいね?」

 マリーは皮肉っぽく言いました。

「紳士のたしなみと言うやつだな」

 ロキは気にした様子もなく残りのチーズにかぶりついた。

「ふーん。まぁ、いいわ。明日は私が何かつくるわね」

「それは助かるな」

「ええ、楽しみにしていてね」

 マリーは笑顔で言ったた。

 それからしばらくしてマリーはベッドに潜り込み、窓の外に浮かぶ昨日よりも少しだけ欠けた月を眺めながら、いつしか深い眠りに就いていた。

 今日一日いろいろありすぎて疲れていたせいか、その眠りはとても深かった。

 マリーは夢すら見なかった。
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こちらの物語は、『小説家になろう』に投稿していたものをブログに掲載し直したものです。『小説家になろう』では最終回まで投稿しているので、気になったかたはそちらでもお読みいただけると嬉しいです。

 

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