『東京湾岸コンテナ埠頭』から数ブロック離れた倉庫裏。
倉庫の回りに張り巡らされたフェンス越しに、コンテナ埠頭の様子を見つめていた衛宮は、物音に反応して即座に振り返った。
瞬間的に銃を抜き――引き金に手を当てて構えてみせる。
銃を抜いた先には、同じように銃を構えている女性が立っていた。
二人は互の姿を認め合って頷いた。
銃を構えたまま。
見つめ合った二人は時間が止まったかのように静止したまま、どちらも言葉を発さなかった。
沈黙の中で何かを語るかのように、再会するまでにかかった時間の長さを推し量るかのように――ただ静かに互いを見つめていた。
「髪の毛、ずいぶん伸びたのね?」
先に言葉を発したのは衛宮と向かい合った女性だった。
「ああ、もう組織には属してないからな」
衛宮が肩を竦めてみせ、その後で二人が銃を下ろした。
「蔵人、久しぶりね」
「ああ、ナオミ、ずいぶん久しぶりだ」
二人は互いを懐かしむように言って困ったように笑った。
お互い何を話したものかと苦笑いを浮かべた。
すると、車の中から一郎が現れた。
「なぁ……一体どんな状況なんだ? 衛宮……彼女が響って捜査官なのか?」
一郎は恐る恐る尋ねた。
「そうだ、一郎。怖がらなくいいぞ。彼女が響直海――僕のパートナーだった女性だ」
「この冴えないかいわれ大根みたいなのが……鈴木一郎ね。蔵人、あなたもこんなのとパートナーを組むなんて、焼きが回ったわね?」
響直海にそう言われた一郎は、蛇に睨まれた蛙のように硬直して何も言えずに沈黙した。
生まれてこの方、女性と付き合ったことはおろか、まともに会話もしたこともない一郎にとっては、どう対処すればいいのかまるで分からない状況だった。
それも、まるでファッションモデルのように綺麗でスレンダーな女性とくれば、尚更どうしていいのか分からず――それどころか住む世界すら違うのではないかと錯覚させられる始末だった。
「ナオミ、一郎を悪く言うのはよせ。僕がここまで生き延びられらたのも、テロリストのアジトを突き止められたのも、全部一郎のおかげだ」
衛宮は一郎を庇うように言い、一郎に気にするなと肩を叩いた。
「あら、ずいぶん贔屓目で新しいパートナーを見ているのね? そもそも、あなたはそこのかいわれ大根のせいで、このテロに巻き込まれたんでしょう?」
「それはそうだが、今さらそんなことを話しても仕方ないだろう? それより、さっさと作戦を開始しよう」
「それもそうね」
響は肩を竦めて言った。
「私が乗ってきた車をこっちに回すわ。ありったけの装備をかき集めてきたから、それを元に作戦を立てましょう」
響は来た道を戻って行った。
「ずいぶん偉そうな女だな」
一郎は溜息交じりに言って緊張を解いた。
「まぁ、実力が全ての男社会でやってきた女だからな。男勝りにもなるさ。殴られないように気を付けろよ」
「彼女……殴るのか?」
「そりゃ殴るだろ。鉄拳制裁が当たり前の社会で、頂上に立ってきた女だぞ? 見た目は美人だか、中身は猿山のメスゴリラみたいなもんだ」
「……胃が痛くなってきたよ。でも、衛宮とはずいぶん親しそうだったな」
一郎は先ほどの二人の雰囲気を思い出して言った。
「まぁ、個人的にもパートナーだったからな」
「個人的にもパートナーって……つまり二人は付き合っていたってことか?」
「おいおい、うんざりするような言い方するなよ」
「うんざりって何だよ?」
一郎は唇をとがらせて言った。
「一郎、まさ……かお前童貞か?」
「ど、ど、ど、童貞じゃないっ。急に何を言ってるんだっ、お前は?」
一郎が顔を真っ赤にして反論したので、衛宮は声を上げて笑った。
「そうムキになるなよ。この事件が解決したら、僕が良い女をいくらでも紹介してやる」
「別にそんなことをしてもらわくてもいいっ。でも……本当に紹介してくれるのか?」
一郎は一度ぶっきらぼうに断った後、小さく尋ねた。
「ああ。いい女なんていくらでもいるさ。何なら、二人でバーにでも行って片っ端から声をかけようぜ?」
「僕にはついていけそうもない世界だ……」
一郎はうんざりと言って肩を落とした。
「まぁ、この事件が無事に解決したらな――」
衛宮は響が回してきた車を見て、それまでの冗談を全てを頭から消し去って言った。その表情もみに纏った雰囲気も、すでに戦闘態勢に突入していた。
最後の和やかな時間は終わりを告げて――
事件はいよいよ終幕へと向かっていた。
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