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仕事をやめるたった一つのやり方~53話

仕事をやめるたった一つのやり方 小説

第53話 ジュリア・レオンハート

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kakuhaji.hateblo.jp

 第一話はこちらから読めます ↑

 

 

 アメリカ合衆国大統領――ジュリア・レオンハート。

 

 元ハリウッド女優であり、その後、人気絶頂期と呼ばれた四十五歳の若さで女優引退の表明と共に政界に進出。州知事を経験した後、大統領選に出馬して見事当選という異色の経歴の持ち主だった。

 

 葛城素子とは就任当初から蜜月関係を築き、日本とアメリカ――二つの国のリーダーが女性ということもあって、二人の関係は事あるごとにクローズアップされ、『女性の時代』などとキャッチーなコピーがついて、各メディアを中心に一世を風靡した。

 

 二人のリーダーは日米同盟のさらなる深化に力を注ぎ、これまで何度となくタフな交渉を続けてきた。

 

 無人機の共同開発計画はその一環だった。

 

 アメリカ側の日本への要求は過度であり、アメリカの『民間軍事会社』の日本での活動と展開を認めろというものであったが、その要求を葛城素子は最後まで拒否し続けた。

 

 国家の監視や管理の届かない民間の軍事会社が、日本国内だけなく、数々の火種を抱える東アジアで活動・展開したとなれば、今現在も激しい戦火の続く中東に続いて、この東アジアが新しい戦場になりかねない。

 そうなれば第三次世界大戦は間逃れず、世界中の各地で燻っている火種が一気に爆発する、そんなシナリオすら考えられた。

 

 しかし、そんな日本政府の考えとは裏腹に、アメリカ側の考えは自国の民間軍事会社が東アジアで活動・展開することによって兵力の均衡が取れ、東アジアの軍事バランスが保たれると説明し、一歩も引かなかった。

 

 アメリカの国力が低下し、圧倒的な軍事力を背景にした『世界の警察』としての役割を果たせなくなる中で、東アジアに配置した米軍を自国に戻したいというアメリカ側の意図は透けて見えたが、米軍が東アジアから撤退したとなると、確かに巨大化する中国との軍事的なバランスが取れなくなることも事実ではあった。

 

 そこで浮上した代替え案が、無人機の開発計画だった。

 

 いずれは日米共同の無人機部隊を日本国内に配備することによって、米軍撤退後の東アジアの軍事バランスを保とうという作戦案だった。

 

 しかし、東アジアの均衡を保つための政策が、まさか自国を脅かす火種となるとは――

 

 葛城素子は忸怩たる思いを秘めて会談の席に着いたが、それを表情には一切ださなかった。

 

 弱気な姿を見せれば相手に付け入られる。

 

 いくらマスメディアが蜜月などと持て囃そうと、これから自分が相手にするのは世界一の大国――アメリカ合衆国を治める大統領なのだ。

 

 毅然とした戦う対応でなければならない。

 

「首相、それではこれよりアメリカ合衆国大統領との会談を行います」

 

 補佐官が言った。

 会議室に置かれたU字型のデスクの先には、巨大なテレビモニターが設置されている。

 葛城首相が頷くと、テレビ画面に一人の女性が映し出された。

 

 ライ麦を連想させる見事な金髪に、サファイアをあしらったような美しい青い瞳。齢五十を超えてなお、銀幕に映し出されていた時と変わらぬ美しさを保った女性が――アメリカという国を、そしてアメリカ人を体現したかのように勇ましい女性が、厳しい表情を浮かべてこちらを見つめていた。

 

「モトコ、あなたの国が大変な時に、突然の会談の申し出を受けてくれて感謝しています。今日起きた悲惨な事件、野蛮なテロ攻撃については、アメリカ政府及びアメリカ国民を代表して、心よりお悔やみを申し上げます。私たちにできることがれば――アメリカ合衆国は助力を惜しまない」

 

 ジュリア・レオンハートは、悲痛な表情を浮かべて哀悼の意を評した。

 

「ジュリア、ありがとう。あなたの申し出は本当に嬉しいわ。それより、今は本題を進めましょう」

 

 葛城素子は外交的儀礼を終えて議論を先に進めた。

 

「モトコ、現在日本で起きているテロ事件に関して、我が国は懸念を表明しなければならない」

 

 大統領は即座に表情を厳しくし、戦う女性の顔になってそう告げた。

 

「懸念……? それはいったい何ですか?」

 

 内閣総理大臣も、表情を崩さずに毅然と対応した。

 

「我が国の情報機関が掴んだ情報によると、現在テロリストは日米が共同で開発をしている無人戦闘機を強奪し、それを使って日本政府に要求を突き付けている。間違いはありませんね?」

「……ええ、間違いありません」

「モトコ、あなたはテロリストの逃走に手を貸そうとしている。それは明らかな間違いです」

 

 大統領は穏やかに語気を強めて続けた。

 

「テロリストを国外へ逃がせば、我々が共同で開発している無人機のデータも国外へと流出します。そうなれば、我が国の無人機技術の根幹が他国に知れ渡ることとなり、無人機はもはや効果的な防衛手段・抑止力ではなくなる。それが何を意味することになるか分りますね?」

「ええ、ジュリア。もちろんです」

「世界中で展開している我が国の無人機が、時代遅れの張りぼてと化すだけでなく、防衛技術の流出によって世界各地の軍事バランスが崩れることにまでなります。そうなれば、米軍は現在の戦線を維持することが叶わなくなるでしょう。それだけではありません。現在の世界経済はドルと円の信頼によって成り立っています。日本がテロリストに攻撃を受け、何一つ効果的な手段や対応ができない国と知れれば、世界経済は早晩ひっくり返るでしょう。貴国が無人機によって攻撃を受けたとなれば尚更です」

「ジュリア、それは分っていますが……我が国の状況をどうか理解してください」

 

 葛城素子は努めて冷静に言葉を口にした。

 

「あなたの国の状況は十分理解しています。その上で我が国はこれ以上、この事態を静観してはいられないと言っているのです」

「静観してはいられないとは?」

 

 葛城素子は平静を装って尋ねたが、その胸の裡は穏やかではなかった。

 アメリカ合衆国大統領は、今現在考え得る最悪のシナリオを実行しようとしていた。

 

「あなたがテロリストの逃走を見逃すというのならば、アメリカ合衆国在日米軍を出動させてでも、テロリストの抹殺を行わなければなりません。モトコ、我が国の事情も理解していただきたい」

在日米軍の出動? ジュリア、我が国で……米軍が軍事行動を取るというのですか?」

「ええ、最悪の場合はそうなります。日本が無人機よる攻撃を受ければ、中国とロシアが黙ってはいないでょう。テロ攻撃の混乱に乗じて領土の拡大を狙おうとするのは自明の理です。これは第三次世界大戦へと発展する火種なのです」

「それは、もちろんその通りですが……」

 

 葛城素子は言葉を失ってアメリカ合衆国大統領を見た。

 

 ジュリア・レオンハートは、その言葉が嘘でも脅しでもないと頷いた。静かながらも覇気と決意に満ちた彼女のその姿は、まさに金色の獅子そのものだった。

 

「モトコ……猶予はありません。今直ぐにテロリストを捕らえ、この事態を掌握してください。でなければ、アメリカ合衆国は軍事行動を取らざるを得ません」

 

 

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