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仕事をやめるたった一つのやり方~48話

第48話 内通者

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kakuhaji.hateblo.jp

 第一話はこちらから読めます↑

 

鴻上こうがみ補佐官、私が未だに捕まっていなことで、貴様は胸を痛めているだろうな?」

 

 電話を受けた鴻上は、テロリストの言葉に顔色を歪めた。

 

「そっ、そんなことは無い……」

「いや、貴様は心の中で願っていたはずだ。私のアジトへの襲撃が成功し、無事に私が捕まることを。できることなら、襲撃の際に死んでほしかったというところだろう?」

 

「違う……私はそんなことは思っていない。しかし、これ以上の攻撃は計画に無かったはずだ……お前は復讐を果たしたはず」

 

 鴻上は声を荒げて婁圭虎に言った。

 

「私は目的を達成したが、攻撃はまだ終わっていない」

「終わっていないとは……どういう意味だ。私はもう十分に協力した」

「ああ、貴様の協力は大変役に立った。初めの取り決め通り、貴様の関与を口外するつもりはない。貴様はこれからも総理大臣の補佐官の地位を守ることができる。私との連絡もこれまでだ。また何かあれば、貴様を利用させてもらおう」

「ふざけるなっ。これ以上……この国に……一体どんな攻撃を行うつもりだ?」

「時期に分かる。鴻上補佐官、貴様は失意に暮れる総理大臣をしっかりと補佐することだ。そして、私の攻撃で傷ついたこの国を立て直すといい」

 

 そこで電話は途切れた。

 

 鴻上は補佐官専用のオフィスの壁に背を預けながら、額に手を当てて苦悩で顔を歪めた。

 

 自分がとんでもない過ちを犯し、この国を、そして全ての国民を裏切っていることは十分にわかっていた。テロリストの内通者としてこの政権にいることを恥じながらも、これ以外の方法が何一つないことに憤りを感じていた。

 

 婁圭虎が指摘した通り、戦略捜査室が指揮するテロリストのアジトへの襲撃が成功し、婁圭虎率いるテロリストの全てが捕まることを心から願っていたが、それは叶わなかった。

 

 叶わないどころか、およそ事態は考える限る最悪の事態に発展していた。

 そして、これからその最悪の事態と向き合わなければいけなかった。

 

「補佐官、会議の時間です」

 

 官邸のスタッフが執務室に現れ、会議の始まりを告げた。

 その後、総理官邸で会議が始まり、今後のテロ攻撃の対応が協議された。

 

「今から三十分ほど前……『防衛省』の『技術開発研究所』がテロリストの襲撃を受け、本日試験飛行を行う予定だった次世代無人戦闘機『XJ-00《エックスジェイ・ダブルゼロ》』――通称『八咫烏ヤタガラス』が強奪されました。おそらくテロリストは、無人機を遠隔で操作することができる装置の開発に成功しており、現在無人機は東京上空を飛行していると思われます」

 

 葛城首相はその報告に言葉を失い、無力感に苛まれながら天を仰いだ。

 

「一体……何故そのような事態に?」

 

 首相はヒステリックに声を上げた。

 

「どうしてテロリストが、我が国の無人機を乗っ取るなんてことが可能なのですか? それに技術開発研究所の警備は? あなた方は……一体何をやっていたのですか?」

 

 首相の激しい叱責を受けた防衛省の幹部は、顔面を蒼白とさせたまま口を噤んだ。

 助け舟を出したのは補佐官の鴻上だった。

 

「首相……現在自衛隊は、今朝起きたテロ攻撃の対応に追われています」

「それは分っています」

「それに戦闘機の緊急発進に備え、多くの隊員が航空自衛隊の支援に回っています。これでは技術開発研究所の警備が手薄になったとしても仕方ありません。そもそも、この無人機は本来なら……飛行試験のために『試験場』へと運ばれているはずだったのです。通常の警備手順で無かったことをご承知ください」

 

 首相は自身が出した命令がことごとく裏目に出ていることを思い知らされた。

 いや、テロリストたちがこちらの動きを完全に読んでいたというべきなのだろう? 

 

 首相は自身の非を認めざるをえなった。

 

「この襲撃により、技研の職員を含む自衛隊員十九名の死亡が確認されています。彼らとて……この状況に憤っているはずです」

 

 補佐官に諌められた首相は、溜息を一つ落として話を続けるように促した。

 

「我が国で開発途中の無人機がテロリストに乗っ取られたという話は理解したが……技術的に可能なのか?」

 

 補佐官は防衛省の幹部に尋ねた。

 

「はい……無人機の乗っ取り自体は、どこの国や組織でも行われいることです。ここ数年ですと……アメリカの無人戦闘機が中東で乗っ取りにあっています」

「しかし、我が国の無人機はアメリカからの技術供与を受けているとはいえ、最新鋭の機体のはず。そのような機体がこうも易々と?」

「乗っ取りに使われた技術はスプーフィングと呼ばれるもので、無人機に偽の情報を送り込んで管制システムを制御します。本来、衛星からの信号によって完全に制御されている無人機なのですが、おそらくテロリストたちは無人機の管制システムに自分たちが発信した信号のみを受け付けるという遠隔装置を組み込んだものと思われます」

「つまり、こちらからの操作は受け付けないということかね?」

「はい」

「無人機の操縦を奪い返せる可能性は?」

「現状……ありません」

 

 防衛省の幹部は力なく首を横に振った。

 

「首相、さらに悪い知らせなのですが――」

 

 次に発言を求めたのは戦略捜査室の敷島だった。

 テレビ回線でこの会議に参加していた彼は、深刻な表情まま口を開いた。

 

「その無人機は――ミサイルを装備している可能性があります」

「何ですって? どういうことなのですか」

 

 首相が再び声を上げた。

 

「はい。テロリストのアジトを制圧した際、地下の倉庫に兵器が運搬された痕跡を発見しました。その後、現場チームが鑑識を行ったところ、戦闘機に搭載するミサイルの可能性が高いという認識に至りました」

「いったいそのようなものを……テロリストたちはどうやってこの国に持ち込んだというのですか?」

「婁圭虎は武器密売の大物です。そして中国当局に確認を取ったところ……郭白龍粛清の際に流出したと考える兵器のリストの中に、戦闘機に搭載する空対地ミサイルが含まれていたと裏も取れています。詳しい資料は防衛省に送信済みなので、ミサイル攻撃についての説明や被害予測などは防衛省からの方がよろしいでしょう」

 

 敷島が説明を防衛省へと引き継ぐように言った。

 

「詳しく説明をしてくれ」

 

 補佐官が説明をうばがした。

 

「はい。テロリストが無人機に搭載したと思われるミサイルなのですが、おそらく中国が開発した空対地ミサイル――『紅雀ベニスズメ』で間違いないと思われます。現場の資料や技研の監視カメラ映像と照合した結果、搭載数は四発と分りました」

「どれくらいの被害が予測されるのですか?」

「ミサイル一発で……街の数ブロックを吹き飛ばすだけの威力を持っています。これを人口密集地に撃ち来まれれば、ミサイル一発で数百人の人命が奪われます」

「なんてこと? それが今、そんなものが……この国の上空を飛行しているというのですか」

 

 首相は信じられないと打ちひしがれた。

 

「はい。すでに自衛隊では厳戒態勢を取っており、無人機の発見を行うべく偵察機を発進させています。総理官邸を含む、十キロ圏内は完全に安全であると保障できます」

「官邸の安全など、この際置いて起きなさいっ。それより無人機の発見はどれくらいで出来るのですか?」

「それなのですが……無人機の発見は難しいと思います」

「難しい? 一体何故ですか?」

「はい……無人機は高度なステルス機能を持っています。これはアメリカから供与された最新鋭の技術であり、あらゆるレーダーに映らいないように設計されています」

「それでは……無人機を見つける手段はないと言うのですか? 今この瞬間にも、数百名の命が奪われようとしているのですよ」

 

 その言葉に、防衛省の幹部は押し黙った、

 

「敷島室長、テロリストの捜査はどうなっているのですか?」

 

 首相は縋るような気持で、テロリスト確保の線に議題を向けた。

 

「少ない手がかりを洗い直していますが……芳しくありません」

「現状……打つ手はないという事ですか?」

 

 その言葉に、この会議に出席をしている全ての者たちが口を閉ざした。

 

 沈黙を破ったのは、会議室に設置された電話機だった。

 補佐官が電話に出ると、官邸のスタッフが出て口を開いた。

 

「補佐官、緊急の用件で首相と話したいという人物から電話です」

「この緊急時に誰だ?」

「それが……婁圭虎と名乗っています」

「何だとっ?」

 

 補佐官は言葉を失って首相に視線を向けた。

 そして、絞り出すように口を開いた。

 

「首相……婁圭虎と名乗る人物から電話です」

「何ですって……本物なのですか?」

「分りませんが、可能性は高いかと」

 

 補佐官は先ほど行った婁圭虎との会話を思い出した。

 テロリストは攻撃の意味は次期に分ると言っていた。

 おそらく何かの要求を突き付ける気だという事は、考えるまでもなく分った。

 

「首相、よろしいですか?」

 

 敷島が口を挟んだ。

 

「何ですか、敷島室長?」

「電話にお出になるなら、なるべく時間を引き伸ばしてください。こちらで逆探知を行い、テロリストの現在地を特定します」

「分りました。他に何か気を付けることはありますか?」

「テロリストの要求には直ぐに応じず、出来る限るの譲歩を引き出してください。否定的な言葉はなるべく使用せず、要求に対して前向きであるという事も忘れないように」

「分りました。それでは電話に出ます。スピーカーフォンにしてください」

 

 補佐官が頷き、スピーカーフォンでテロリストとの通話を繋げた。

 

内閣総理大臣の葛城です。鴻上補佐官も同席しています。あなたは何者ですか?」

「初めまして、内閣総理大臣。私は婁圭虎。今朝、貴国に対して攻撃を行った者だ」

 

 低く獰猛そうな声が会議室に響いた。

 

「初めましてですって? 我が国にテロ攻撃を行い、数百名の命を奪っておいて……紳士ぶるのはよしなさいっ」

 

 首相は毅然とした態度でテロリストに向かい合った。

 

「なるほど一理ある。では、簡潔に貴方に要求を突き付けよう」

「要求? よくも抜けぬけと。貴方こそ、良く聞きなさい。今直ぐ、我が国への攻撃を止めなさい。これ以上我が国攻撃を加えれば――私は貴方たちに必ず報いを受けさせる」

「報い? 私の居場所も分からずただ右往左往しているだけのあなたが、私に報復を加えるだと? おもしろい冗談だ。私は今直ぐに貴方の国に攻撃を加えらるのだぞ?」

「そんなことは断じて許しません」

「許す許さないなどは関係ない。私が標的を定めるだけで、貴国が開発した無人機からミサイルが発射される。それくらいの情報は、そちらでも掴んでいるのだろう?」

 

 婁圭虎は嘲るように言ってみせた。

 

「関係の人たちを巻き込むのは止めなさい。あなたの目的はすでに達成されたはずです」

「ふむ、確かにその通りだ。私は復讐を果たした。これ以上、貴国に攻撃を加える必要は確かにない。だから葛城素子――貴方にチャンスを与えよう」

「チャンスですって?」

「そうだ。貴方の国民をこれ以上一人として失わなくて済む重要な機会だ」

 

 首相はその言葉を聞いて押し黙り、会議の出席者たちに目配せをした。

 

「そのチャンスとは……いったい何ですか?」

「一時間以内に、『羽田空港』に民間の航空機を用意しろ。操縦士を一人乗せ、いつでも発進できるように待機させておけ。そして、我々に関する捜査を全て打ち切るように各捜査当局や情報機関に命じろ。少しでも我々を追っていると分かれば、私は容赦なく貴国に攻撃を加える。これまでにない規模の大惨事を引き起こす用意があるとだけ伝えておこう。要求は以上だ――」

 

 電話は無慈悲な音を立てて切れた。

 会議室には重苦しい沈黙の帳が下りた。

 

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