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仕事をやめるたった一つのやり方~47話

第47話 白紙の恩赦状

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kakuhaji.hateblo.jp

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 戦闘を終えた衛宮は、左手に刺さった暗器を引き抜いて銃口を突きつけた男を見下ろした。

 

 黒いスーツを纏った男は、両腕に銃弾を撃ち込まれて苦悶に喘いでいながらも、面をかぶったような薄ら笑みを浮かべたまま、糸のような細目で衛宮を見上げていた。

 

「動くなよ。少しでも動けば、今度は両足を打ち抜く」

 

 衛宮はそう言いながら銃を構えたまま後ろに下がり、クローゼットの方へと足を向けた。

 

「衛宮、大丈夫か?」

「ああ、問題ない。こっちは片付いた」

 

 一郎からの連絡に言葉を返しながらクローゼットの中を覗き込むと、中でアラン・リーが銃弾を受けて死亡していた。

 

 身を隠しているように言ったが、逃げようと身を乗り出してしまったのだろう。壁に当たった弾丸が跳ね返り、運悪くアラン・リーの頭に命中していた。

 

 テロリストらしい最後と言えたが、衛宮はもう少し情報が聞き出せたはずだと、情報源を失ったことを苦々しく思った。

 

 同情や憐みのような感情は一切抱かなかった。

 

「お前が、シン――司馬秦だな?」

 

 衛宮は再び床に転がったテロリストと対峙し、その名前を尋ねた。

 シンは笑みを浮かべたまま頷いた。

 

「そうだ。私が司馬秦だ」

「貴様には聞きたいことが山ほどあるが、手っ取り早く聞くぞ――婁圭虎はどこにいる?」

「衛宮蔵人、私の話を聞いてほしい――ぐあああああああああああああ」

 

 シンは衛宮を話し合いの席に着けようとしたが、言葉は悲鳴に変わった。

 衛宮はシンが投擲した暗器をシンの太腿に深々と突き刺し、その言葉を遮った。

 

「貴様は聞かれた事にだけ答えろ。穴だらけにしてやってもいいんだぞ。ちょうど、お前の手下に穴をあけられところだしな?」

 

 衛宮は凄みながら暗器を引き抜き、今度は反対の太腿に突き刺した。

 

「ぎぁああああああああああああああああああああああああああ」

 

 再びシンが叫んだ。

 

「衛宮蔵人……私は商人だ。対価さえもらえば何でも売る。貴方が欲しがっている情報も喜んで差しだそう。それが……たとえ同士婁の首であったとしても」

「――黙れ。貴様に払う対価など存在しない」

 

 衛宮は暗器を引き抜き、それをシンの顔に近づけた。

 そしてテロリストの目の辺りの肌に這わせた。

 

「三秒以内に答えなければ、貴様の右目を突き刺す。三――」

「いいか? 私を殺せば、同士婁の居場所は永遠に分らない」

「二――」

「彼は今、最後の攻撃を行うとしている。無人機による攻撃だと言うことは掴んでいるはずだ」

「一」

「攻撃までは一刻の猶予もない。まずは私の話を聞くべきだ」

 

 シンは恐怖で目を見開きながらも頑として譲らず、声を荒げて捲し立てた。

 

 衛宮は直感的に、この男は拷問では口を割らないだろうと判断した。

 この男は裏の世界で生き抜いてきたプロだ。間違いなく拷問にも耐えうるだろう。時間をかければいずれ口を割るだろうが、今は一刻も早く情報を引き出すことが先決だった。

 

 それには、やり方を変えるしかなかった。

 

「いいだろう。貴様が言う対価とは何だ?」

「『司法取引』をしてもらいたい。私が婁圭虎の逮捕に全面的に協力する代わりに、その後の自由を保障してもらう」

 

 衛宮は嘲るように笑った。

 

「残念だが……この国に司法取引は存在しない。それに、もう僕は捜査官じゃない。僕にそれを持ちかけたところで――それは叶わないぞ?」

「私を侮ってもらっては困る。この国に司法取引は存在している。国民に知らされておらず、憲法で明文化されていないだけで、超法規的な場合にのみ発動する白紙の恩赦があるはずだ」

 

 シンの言っていることは事実だった。

 この国には法案などで定められた司法取引は存在しないが、内閣総大臣の権限でのみ行使できる秘密裏の『司法取引』があった。

 

 俗に『白紙の恩赦状』などと呼ばれているが、それが今までどれほど行使されてきたのかは、それを行った内閣総理大臣と政権内部の極少数しか知らず文章などでも残されていないため、そのほとんどが闇の中だった。

 

「確かに……それが存在することは認めよう。だが、僕では貴様にそれを与えることはできない」

「衛宮蔵人、貴方は『戦略捜査室』の一員だった。貴方の話に耳を傾ける人間が少なからずいるはずだ。無駄なやり取りを時間を無駄にするのは止めた方が良い」

 

 衛宮はシンが自分の情報を多く掴んでいることを理解した。

 

「分った。貴様に司法取引を持ちかけることに異論はない。現状、それしか打つ手がなさそうだしな。しかし、今はその取引に乗ることはできない」

「何故だ?」

「政権の中枢……または戦略捜査室の中に婁圭虎の内通者が存在している。お前との司法取引を求めれば、それが婁圭虎にも伝わるだろう。そうなれば、婁はお前が裏切ったと知って闇に潜るだろう」

 

 それを聞いたシンは、ここが商談の山場だと見抜いた。

 相手の欲しがっている商品を理解し、それに見合う対価を計算した。

 

「衛宮蔵人、私は貴方に婁圭虎に関する全ての情報を提供すると約束したはずだ。まずは信頼の証として、貴方が懸念する内通者の存在を明らかにしよう。その後で、同士婁の居場所を教える。それで構わないだろう?」

 

 衛宮はシンの考えを推し量りながらも、これ以上悪戯に時間を引き延ばすようなことはできないと判断した。

 

 この瞬間も、この国はテロの脅威にさらされている。

 それも無人機の乗っ取りという最悪の脅威に。

 

「いいだろう。話せ――」

 

 そうして、衛宮は内通者の存在に辿りついた。

 

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