「同士婁――包囲されていたアジトが襲撃を受けたようです」
迷彩服を纏った兵士が静かに告げた。
「ほう……思ったよりも早かったな?」
「はい。アジトは完全に制圧されました」
「そうか。日本警察はお決まりの生温い交渉から始めると思っていたが、包囲した後、即座に突入をして見せるとは。大量の犠牲者が出る覚悟をしていたか? 葛城素子は――なかなか豪胆な総理大臣らしい」
黒い人民服を着たままの婁圭虎が、感心したように言ってみせた。
婁圭虎と蛟竜は、すでにあのアジトを放棄していた。
早々に包囲されることを予期していたわけでないが、あのアジトが特定されることは分っていた。
航空機の乗っ取りは成功し、当初の目的自体は達成した。
その後も攻撃を続けることはできたが、管制システムのファイヤーウォールが復旧してシステムから締め出されてしまえば、アジトが特定されるのは時間の問題だった。
だから攻撃の後、即座にあのアジトを放棄した。
婁圭虎の作戦は次の段階に突入し、目下その作戦は進行中だった。
完全武装したテロリストたちの両手にはアサルトライフルが握られり、その足元には大量の死体が転がっている。
殺風景な倉庫のような空間には、激しい戦闘の痕が色濃く残っていた。
婁圭虎は血の海を前にしても何の感情も浮かべず、自分の足元に転がる死体を無表情で眺めていた。そして、こめかみに指を当てて思案した。
婁圭虎の考えでは――少なくともアジトへの突入には、まだしばらく時間を要するはずだった。
アジトに残してきた自らの部下、蛟竜の兵士は五名。おそらく全員が戦闘によって死亡したか、捕虜となって尋問を受けることになるだろう。そして、アジトの地下に残してきた数々の証拠を見れば、今後我々がどのような攻撃を行うかは一目瞭然であり、そうなればこの場所が露呈するのも時間の問題だった。
先手を打つか――作戦を急がせるか?
婁圭虎の回りでは、兵士たちが忙しなく作業を続けている。アジトの物資を運んだ大型のトラックから物資を取り出し、それの搬入、装着作業に従事していた。
生き残った蛟竜の兵士は婁圭虎を入れて十五名。
十五名の兵士全てが、最後の作戦の為に決死の行動を続けていた。
「全員、傾聴せよ――」
婁は決断してテロリストたちに指示を出した。
「すでに我々の当初の計画は完遂され、我々を祖国より追いやった裏切り者への粛清は果たされた」
婁の言葉を聞いたすべての兵が一時作業を止め、自分たちの指揮官を見つめた。
「我が祖国と、そしてこの国は今日思い知るだろう――我々の力を。我々はかつての力と取り戻す。これより、我々はこの国に最後の攻撃を行う」
先手を打つことを決めた婁圭虎は、部下の前で高々とアサルトライフルを掲げてみせた。
まるで勝鬨を上げるように。
彼の背には『漆黒の戦闘機』が控えており、その先には大空へ飛び立つための滑走路が伸びていた。
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