テロリストによる攻撃が続いている最中――
『戦略捜査室』の捜査は大詰めを迎えようとしていた。
戦略捜査室はすでにテロリストの潜伏先を特定し終え、テロリストがアジトに使用している東京西部の建設途中のビルを完全に包囲して、その範囲五キロ圏内を完全に封鎖していた。
現場には戦略捜査室の響直海が現場チームと共に到着しており、応援を要請した警察からは『SAT』の部隊が集結をしていた。
テロリストのアジトから二ブロック離れた場所に作戦本部が設置され――本部には作戦を支援する情報分析官や鑑識チーム、爆発物処理班、医療班、救急、消防といった様々な人材による即応チームがが待機していた。
そして、捜査本部である戦略捜査室の会議室では、室長の敷島、巻波、鹿島を含めた上級職員とスタッフが、総理官邸とリアルタイムでの連絡を取りながら作戦の行方を見守っていた。
葛城首相は、すでに自国がテロの攻撃を受けていると国民に向けて声明を発表しており、万が一に備えて自衛隊が待機していることも告げていた。
航空自衛隊が保有する戦闘機は、全て緊急発進できる状態で待機しており、陸上自衛隊は治安維持のためにいつでも出動できるように緊急招集が行われている。
この作戦が失敗に終わり、万が一にもテロリストを逃してテロの脅威が続くという最悪の事態が起これば、首都圏に戒厳令と外出禁止令を出し、自衛隊を派遣するという選択肢も見え始めていた。
それだけは、絶対に避けなければいけない事態だった。
日本国内に自衛隊を派遣して国民の自由を制限するなど、ありえてはいけないことだった。
それに、後一時間早くテロリストのアジトが見つかっていれば、最低でも航空機の乗っ取りは防げたのではないか?
葛城素子はそう考えずにはいられなかった。
しかし、現状戦略捜査室は最善を尽くしている。
多くの法的な制約や手続きがある中で、これだけの部隊とチームを即座に招集して現場を包囲した手腕は称賛に値するだろう。
葛城素子は考えずにはいられなかった。
自分の政権で可決させた『テロ関連法案』を、野党や世論の反対や反発に屈することなく提出したままの状態で可決していれば、この状況は違ったものになっていたのではないかと。
あのような骨抜きのまま可決するべきではなかったのではと。
今さら考えても詮無きことだった。
「全ての準備は整いましたね?」
葛城首相は静かに尋ねた。
「葛城首相、作戦を開始してもよろしいですね?」
「ええ、もちろんです。テロリストどもを全員捕らえなさい」
敷島が作戦開始を求めると、葛城総理は力強く頷いた。
「響、首相のゴーサインが出た――作戦を開始しろ」
巻波が現場の響きに告げると――
部隊と共に待機をして響直海は小さく頷いた。
この瞬間、総勢四十名を超える完全武装の捜査官が、テロリストのアジトへの突入を敢行しようとしていた。
事前の捜査――偵察衛星による熱分析の結果では、このビル内に潜んでいるテロリストの数は凡そ三十名。訓練された特殊部隊の兵士も多くおり、テロリストが使用している武装は全てが最新鋭であると判明していた。
さらに、このビルを出入りした運搬車両を調べてみると、テロリストたちはサイバー攻撃を行うための機材の搬入だけでなく、大量の武器や兵器を運び込んでいたことも判明した。
そのリストの中には大量の爆弾や爆薬なども並んでおり、このビル自体を爆発して証拠の隠滅を図ると言う可能性も浮上していた。
響直海は無線機を握りながら考えた――この作戦が苛烈を極め、味方に多くの死傷者を出すだろうことを。
作戦の成否は自分の現場での指揮にかかっており、そして自分の指揮の下で多くの仲間が死ぬかもしれない。
「――了解。これより速やかに作戦を開始します」
しかし、響直海は巻波との通信を終えると、この作戦に関係のない全ての要素を自分の頭の中から消し去り、意識を両手で握った拳銃にのみ集中させた。
「これより作戦を開始する――私が三つ数えたら、一班はビル正面の入り口を爆発して突入。二班は裏口から入り、一班の援護とフロアの制圧。ヘリで待機している三班は、速やかに屋上から突入。狙撃主は各自の判断でテロリストを狙撃せよ。全員の幸運を祈っている。三、二、一、作戦開始―――」
響直海が作戦開始を告げると、各持ち場で待機をしていた捜査官達が一斉に行動を開始した。
「突入」
「ゴーゴー」
「行け行け」
大きな爆発の後――
突入を開始した捜査官の声が無線を通じて飛び交い始めた。
響直海も、一班と共に正面の入り口からテロリストの本拠地に突入を果たし、テロリストたちを殲滅するべく行動を開始した。
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