「衛宮、これを見てくれ……」
「これは……何だ?」
衛宮は一郎から見せられた映像に表情を強張らせた。
巨大な飛行機の残骸が海に墜落していく映像だった。
「那覇空港に向かっていた航空機が……他の航空機と衝突して墜落したらしい。死傷者は五百名に上るって。これもテロ攻撃なのか?」
「ああ、間違いないだろう」
二人がSUVの車内でテロリストの捜索を開始してから、すでに大きな事件が立て続けに起きていた。
道路と鉄道に続き――今度は航空機。
これで東京の交通網の全てが麻痺したことになる。
攻撃を受けた住民はパニックを起こし、膨れ上がった恐怖はいずれ暴動へと発展するだろう。そうなったら手の施しようがない。
衛宮はあまりの事態の深刻さに歯を食いしばった。
「『戦略捜査室』は何をしているんだ? 事態を掌握していたんじゃないのか」
「こんなことになるなんて? 一体に何が起こっているんだ……」
一郎は、自分が想像をしていたよりも遥かに大規模なテロの攻撃に言葉を失った。そして、自分が関わってしまったものの重大性や危険性を改めて認識していた。
「でも……こんな事件を、どうやって起こしたんだ? 航空機同士を意図的に衝突させるなんて……」
「おそらく、管制官に成りすまして航空機を誘導したんだろう。以前から指摘されていた脅威だ」
「管制官に成りすます? そうか……管制システムの仮想環境を構築したのか。ファイヤーウォールが機能していないなら、やってできないことはない」
一郎は技術的なことをぶつぶつと呟きながら、意識をアラン・リーの捜索に向け直した。
先ほどからありとあらゆる情報にアクセスを続けていたが、なかなか目当ての人物を探し出すには至っていなかった。
「ちょっと待てよ……これは?」
そんな中、一郎がある手掛かりを見つけて声を上げた。
「何か見つかったのか?」
「ああ。アラン・リーのクレジットカードが、今から三十分前に使われている」
「本当か?」
衛宮は俄かには信じられないと顔を顰めた。
これまで巧妙に存在を隠し続けてきたアラン・リーが、テロ攻撃が行われている最中に自分名義のクレジットカードを使うなどという事があり得るのか――そんなことを考えた。
罠の可能性すらあると。
「このクレジットカードはアラン・リーの両親の名義でつくられていて、彼がアメリカにいる時に頻繁に使用していたカードだ。日本に来てからは一度も使用されていないみたいだけど、アラン・リーのカードで間違いないと思う」
衛宮は考えた。
おそらくクレジットカードを使用したことは事実だろう。
アラン・リーはまだ二十一歳の大学生で、自分がやっていることの重大さを理解していない可能性がある。そして、テロ攻撃が実際に起こったことで気が緩んだか、または自分がしでかしたことの大きさに動揺してしまい、つい馴染のあるカードを使用してしまった。
そう考えれば、それらしい筋書きになる。
「一郎、カードはどこで使われた?」
「ちょっと待ってくれ。えーっと……『東京コンチネンタルホテル』のレストラン。パフェを食べてるな」
「パフェ? まぁ、良い。東京コンチネンタルホテルか? ここからだと二十分程度だな」
おそらく、アラン・リーは攻撃が終わるまでホテルに身を隠しているように命じられているのだろう。それなら彼は一人でいる可能性が高く、自分のカードを使用してしまったことの説明もつく。
護衛はいても一人か二人程度。
確保するなら、最初で最後のチャンスになる。
衛宮は即座に決断を下した。
「車を出す。一郎はアランの宿泊している部屋の番号を探してくれ」
「分った。直ぐにやる」
そうして、二人は東京コンチネンタルホテルに急行した。
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