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仕事をやめるたった一つのやり方~39話

仕事をやめるたった一つのやり方 小説

第39話 目的

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kakuhaji.hateblo.jp

 第1話はこちらから読めます ↑

 

「首相……たった今、大変悪い知らせが入りました」

「これ以上、悪い知らせがあると言うのですか?」

 

 葛城首相は青ざめた補佐官に苛立ちを隠さずに言った。。

 

「はい。『国土交通省』より緊急の連絡が入ったのですが……テロリストの狙いが分りました」

「狙いが分った?」

「どうやらテロリストたちは……『航空管制センター』のシステムに侵入し、管制官に成りすまして飛行機を誘導したようなのです」

「飛行機を……誘導?」

 

 首相も即座に事態の深刻さを理解した。

 

「はい。今から数分前に那覇空港へと向かっていたJNA907便が……中国の要人を乗せた政府専用機と……駿河湾上空で衝突しをました。二機の航空機は空中で爆発して墜落。犠牲者の数は五百名に上ると見られています」

「なんてこと……」

 

 首相は言葉を失って執務室の椅子に深く腰を下ろした。

 

「それで……テロリストの狙いと言うのは?」

 

 しかし、首相は瞬時に気丈さを取り戻して現状との対峙した。

 

「はい。中国の政府専用機なのですが、どうやら、それに搭乗していた政府の要人というのが……内々にアメリカへ向かっていた劉行軍りゅうこうぐん郭白龍かくはくりゅうの粛清を行った中国政府の高官のようなのです」

「つまり、婁圭虎ロー・ケイフーは……自分のボスを粛清した政敵に報復を行ったという事ですか? このテロ攻撃が復讐だったと?」

 

 その情報自体はすでに齎されていたものだった。

 

 テロ攻撃の脅威があると判明し、中国大使に情報を求めた時に、断片的にではあるがその情報を得られていた。その時、こうなる可能性を考慮して中国政府に危険を呼びかけられていたら――葛城素子は悔恨に唇を噛みしめた。

 

 そして補佐官は否定とも肯定との取れない頷きの後、自説を述べ始めた。

 

「はい。報復や復讐を行ったとも取れますが……劉行軍は郭白龍の粛清後、郭白龍が握っていた東アジアでの利権ビジネスをそのまま受け継いでいます。その中には婁圭虎率いる『蛟竜こうりゅう』が深く関わっていた武器の密売ルートもあり、それを取り戻すためとも考えられます」

 

 首相は額に手を当てて溜息を吐いた。

 

 他国の権力闘争に、それも報復や利権争いに我が国が巻き込まれたのだと考えると、やり場の無い怒りが込み上げ、虚しさを感じずにはいられなかった。

 

「それで、攻撃は終わったのですか?」

「分りません。国土交通省は全ての航空機に緊急着陸を命令していますが……我が国の上空には……今も五百機近い航空機が飛行しています。全ての航空機を着陸させるだけでも、六時間はかかります」

 

 葛城素子はテロリストの目的よりも、すでに五百名以上の死者が出ており、その数はこれから先も増え続ける可能性があるという事実に戦慄した。

 そして、自分の元に届けられたテロ攻撃の資料と、テレビで流されているニュース映像を見て、その恐るべき攻撃に恐怖した。

 

 航空機が墜落した相模湾には、炎上した飛行機の残骸が鳥か魚の死骸のように浮かんでいた。

 

 先ほどまで各局で事故として報じられていたテロリストの攻撃が、今は明確にテロ攻撃の疑いがあるとして全国ネットで流されている。インターネットでは一連の事件がテロ攻撃であると断じられ、すでに検証や情報の提供と共有が始まっていた。

 

「テロリストによる声明の発表や要求などはないのですか?」

「今のところは……何も」

「では、今も現在も航空機がテロリストに乗っ取られる可能性があるという事ですか?」

「はい。テロリストは管制官に成りすまして航空機の誘導を行っています。つまり五百以上の爆弾が空を飛んでいるようなものです」

「馬鹿な? テロリストをシステムから締め出せないのですか?」

 

 首相は信じらないとは両手を広げた。

 

「もちろん、技術スタッフが総出で事に当たっていますが、ファイヤーウォールが全く機能していない状態なのでは如何せん。今ファイヤーウォールの再設計を行っていますが、完成までは数時間はかかるとのことです。しかし、『戦略捜査室』は攻撃の痕跡から敵のアジトを発見することは可能であると言っています」

 

 事実、この時『戦略捜査室』の情報分析官は、『航空管制センター』のファイヤーウォールへの侵入から、敵のアジトへの繋がるであろう情報を掴んでいた。

 

「しかし、数時間の間、我が国は無防備な状態でいなければならないという事ですか?」

「はい。ですので……現在、全ての自衛隊基地で航空自衛隊が待機しています」

「民間人の乗った航空機を撃墜すると言うのですか?」

 

 首相は首を横に振った。

 

「いえ、あくまでも……予防措置の一環です。しかし、万が一にも都市圏に航空機が墜落することとなったら……どれだけの犠牲者は出るのかをお考えください」

 

 首相は言葉を失ったまま天を仰いだ。

 自分が民間人の殺害を命令するような事態が起こりえる。その事実を上手く受け止めきれずにいた。

 

「それと中国大使が至急お会いしたいと言ってきてますが……如何いたしますか?」

 

 補佐官は首相の心中を察して話を変えた。

 

「中国大使? 今さらになってですか?」

 

 葛城は不快感を隠さずに言った。

 

 こちらが情報の提供を求めた時には口を噤み続けておいて、いざとなった面会を申し出るなどと――喉も元まで出かかった言葉を呑み込んで、首相は補佐官に言葉の続きを促した。

 

「はい。おそらく中国側は……この件を国際問題に発展させようと画策してくるでしょう。舵取りを間違えれば、政権にとって痛手となります」

 

 葛城は大きな溜息を落した。

 こんな時でも政治とは――そして、この未曾有の大事態を前にしても政権の運営を考えなければいけいないとは。

 

 しかし、今は決断を急がなくてはならない。

 

政権運営のことは、一旦置いて起きましょう。大使は待たせておきないさい」

 

 首相は心の中で――近い将来、中国には我が国で起きたテロ攻撃のつけを払わせると決意し、今は国内のテロに目を向け直した。

 

「全閣僚と自衛隊の全幕僚長を招集してください――緊急会議を行います」

 

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