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仕事をやめるたった一つのやり方~36話

仕事をやめるたった一つのやり方 小説

第36話 復讐者

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kakuhaji.hateblo.jp

 第一話はこちらから読めます ↑

 

「同士婁――衛宮蔵人の抹殺は失敗したようですね?」

 

 テロリストのアジトでは、これから行うサイバー攻撃の準備が着々と進みつつあった。

 

 巨大なモニタの前で進捗状況を見守っていた婁圭虎ロー・ケイフーは、シンに尋ねられて目障りそうに視線を向けた。

 

「その通りだが――何か問題も起こったか?」

「いえ、今のところは何も問題はありません。内通者から新しい情報は?」

「無い。どうやら衛宮蔵人は、戦略捜査室との連絡を完全に経ったようだ。今後捜査に加わることもないだろう」

「そうですか。ただ、今後問題が起こる可能性はあります」

「ほう。それで?」

 

 獣のような男に真意を尋ねられたシンは、微笑を浮かべたような表情のまま口を開いた。

 

「私はここで降りさせていただきます。あなたと行動を共にしても、私にはリスクがあるばかりで何の得もない。それに、私は手下のほとんどを失ってしまった。これ以上、あなたの役には立てないでしょう」

「怖気づいたか?」

「いいえ。攻撃後のあなたの出国ルートを確保しておきます。後、念のためアランを保護しておきましょう。彼には、まだ利用価値がある」

 

 婁はゆっくりと立ち上がってシンを見下ろした。そして、ゆっくりと頷いた。

 

「いいだろう。しかし、裏切ろうなどとは考えるなよ。私は執念深い男だ。どんなことしても――貴様を追い詰めるだろう」

「分っています。復讐者――婁よ」

 

 シンは目の前の虎を復讐者と呼んだ。

 微笑みの仮面こそ崩してはいないものの、その背には嫌な汗をかき、今までにない緊張が走っていた。

 

「私も、あなたの復讐のリストに名を連ねたいとは思いません。それでは、あなたの復讐が首尾よく終わることを願っています。例の情報を手に入れ次第、ご報告ください。そうすれば、今後の潜伏先の待遇もずいぶんと良くなるでしょう」

「貴様は自分の身の安全だけを考えていろ」

 

 うやうやしく頭を下げて去っていたシンが視界から消えると、婁はこめかみに指をあてて自分の語った言葉を検証し始めた。そして、シンにまだ利用価値があるかどうかということも含めて。

 

 衛宮蔵人が戦略捜査室の捜査に加わることはないと語ったが、テロ攻撃を防ぐために独自に動きはするだろう。

 奴は手負いの獣同然――甘く見ればこちらが痛い目を見る。

 そして、念には念を入れておく必要がある。

 

 そう考えた婁は、携帯電話を取り出して電話をかけ始めた。

 

「……何故、電話してきた。もう私には電話をしないと約束したはずだっ」

 

 婁の電話に出た人物は、開口一番、押し殺した声で怒鳴りつけるように言った。そのしわがれた声には、ひどい疲労の色が濃く浮かんでいた。

 

「衛宮蔵人に関して新しい情報は?」

 

 婁が尋ねると、電話の相手は深い溜息を洩らした。

 

「お前と連絡を取っていることが知れれば……私は破滅だ。私だけじゃない……政権全体が大きなダメージを被る」

「それは貴様の問題だ。衛宮蔵人に関して新しい情報は?」

「今から二十分ほど前、衛宮蔵人がマトリクス社に現れたという情報が入った。システム開発室に証拠を探しに来たようだ。その際、戦略捜査室の分析官一人が気絶させられている」

「その後の足取りは掴めているのか?」

「いや、手掛かりは無しのようだ」

「そうか」

「頼むから……もう電話をかけて来るのは止めてくれ。私は……もう十分協力してきた――」

 

 婁は内通者の話を最後まで聞かずに電話を切った。

 そして、今聞かされた情報の分析を始めた。

 

 これで衛宮蔵人と戦略捜査室は完全に決裂したことになる。両者が捜査に協力し合うという事もないだろう。

 

 だとすると、後は衛宮蔵人がマトリクス社で得た証拠が、テロ攻撃の真相に繋がっているかという点だけだが、それも問題はないだろう。

 あそこのデータは完全に破棄されている。我々に繋がるようなものは何一つない。仮にデータの復元にある程度成功したとしても、今さら攻撃に対処することはできない。

 

 婁はそう判断した。

 

 後はシンの処遇だけだった。

 これ以上、このテロ攻撃にシンの存在は必要なかった。そして、あの男は多くを知り過ぎた。これから起こすテロ攻撃の詳細を知っているのは、ここにいる元『蛟竜』のメンバーと、司馬秦しばしんだけだった。

 

 ここで消しておくべくか?

 

 婁はそこまで考えて、否と自分の考えを否定した。

 

 あの男にはまだ利用価値がある。

 攻撃後の出国ルートを安全に確保するのにも、あの男の力は必要になるだろう。

 それにこれから得ることになる情報を売るための買い手を探すにも、奴の存在は必要だ。

 

 そこまで考えて、婁は口を開いた。

 

「流石は商人を自称するだけはある。自分の価値の吊り上げ方をよく知っている男だ」

 

 婁はそれ以上シンのことを考えるのをやめた。

 

「――全員、傾聴せよ」

 

 そして、フロアで作業をしている全員に向けて声を上げた。

 蛟竜のメンバーを含むテロリスト全員が、作業を中断して指揮官に向き直った。

 

「これより、我々はこの国に対して攻撃を行う。これは我々を虐げた裏切り者への復讐であると同時に、我々の生存をかけた戦争でもある――全員心してかかれ」

 

 そうして――テロ攻撃の狼煙は高く上げられた。

 

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