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仕事をやめるたった一つのやり方~35話

第35話 ダイブ

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kakuhaji.hateblo.jp

 第一話はこちらから読めます↑

 

「どうだ、何かつかめたか?」

 

 車内に戻ってきた衛宮は、開口一番で尋ねた。

 

 不知火の乗ってきたSUVが、今は二人の捜査本部になっている。

 捜査に必要な装備や端末も、車内にあったものを全て利用しており、その際、車に付けられたGPS発信機などは全て外し、身元が特定されないように偽装工作を施した。

 

「衛宮、おつかれさん」

 

 一郎は英数字の羅列されたモニタを食い入るように見つめながら、キーボードを操作していた。

 

「今のところは何もないけど、多分手掛かりを見つけた」

「本当か?」

「ああ、これを見てくれ――」

 

 一郎はモニタに表示された映像を衛宮に見せた。

 

「これは破棄されたプログラムを復元した一部だ。全てのプログラムに共通したコードが書かれている」

 

 四つのプログラムには、確かに共通した文字列が存在した。

 

「このプログラムが何のプログラムなのか分るのか?」

「残念ながらそれは分らない。プログラムの復元は無理だろう」

「じゃあ、これで何が分かる?」

 

 衛宮は結論を急がせた。 

 

「これはプログラマーの署名なんだ」

「署名?」

「ああ。プログラマーハッカーって奴は……基本的に幼稚で自己顕示欲が強い。だから自分がつくったプログラムやハッキングしたサイトなんかに、自分の署名を残したがるんだ」

「それは自分ことを言っているか?」

 

 衛宮にズバリ言い当てられて、一郎は顔を赤くした。

 

「うるさいっ。僕のことは関係ない。つまり……この署名はこのプログラムの作成者である可能性が高いってことだ」

「作成者が分かるのか?」

 

 衛宮は懐疑的な目を一郎に向けた。

 たった数文字程度の英数字で、何が分かるんだと言っているようだった。

 

「ああ。ちょっと待ってろ。今探し出す――」

 

 一郎はそう言うと、海外のサイトにアクセスした。

 

「ここは『名前無き情報開示者たち』のウェブサイトだ。基本的にメンバーしかアクセスできないし、アクセスできたとしてもメンバーを特定することはできないように色々な手が施されている」

 

 一郎はサイトから掲示板にアクセスし、英語で何かを尋ねはじめた。

 

イチロー、何をしてるんだ?」

「このサインのプログラマーを探してるんだ」

「こんなところで見つかるのか?」

「この掲示板にいる大多数は、何の役にも立たないハッカーもどきか、ただオタクだが、中には超大物のハッカーもいる。そして、そんな奴らは危ない話や、きな臭いネタが大好きだ」

「何か餌でもぶら下げたのか?」

「ああ。このサインのプログラマーが、テロ攻撃に加担しているって情報を添えつけた。みんな興味津々でレスを返してくれてる。自分のスキルでテロリストを釣り仕上げにしてやろうと躍起になっているぞ」

 

 衛宮はやれやれと言った感じで、急に生き生きとし始めた一郎を眺めた。

 

「良しっ。良しっ。ほら、来たぞ」

 

 一郎は端末の画面を食い入るように見つめて小さくガッツポーズを取った。

 

「本当か?」

「情報提供者だ。しかも、かなりの大物だぞ」

「大物?」

「通称、フルクラム。去年アメリカの『国土安全保障省』のデータを三千件流出させた凄腕だ」

「ただの犯罪者じゃないか」

「それはそうだけど……今は味方だ」

 

 一郎は言い訳するように言って、掲示板のやり取りを続けた。

 

「なになに? フルクラムは有名なプログラマーハッカーのサインを……データベース化して保存しているらしい。凄いな。それで、このサインに該当するプログラマーを見つけたって言っている」

「で、誰なんだ?」

「ええっと……通称、アクセル・リー。中国人ハッカーで、国家の機密情報、主に兵器情報などを売り捌いている奴みたいだ。プログラマーとしてもかなり優秀らしい。詳細な個人情報もある。本名はアラン・リー。アメリカの大学に通う二十一歳。中国系アメリカ人だな」

 

 アラン・リーの詳細な情報と共に、彼の顔写真までもが添付されていた。

 

アラン・リー。こいつの居所さえ分れば、テロリストが何を攻撃対象にしているのか分かりそうだな?」

 

 衛宮はどうしたものかと頭を悩ませた。

 

 この情報を戦略捜査室に提供してアラン・リーの居場所を特定するという選択肢もあるが、やはり内通者の存在が気がかりだった。情報が洩れて地下に潜られたり、最悪口封じに殺されてしまう可能性を考えると、秘密裏に行動して身柄を拘束したい。

 

 しかし現状の捜査環境や設備では、短時間でアラン・リーを探し出すことは不可能に近かった。

 

「……衛宮、このアラン・リーは日本国内にいるんだよな?」

 

 衛宮が考えあぐねていると、一郎が声をかけた。

 

「それは間違いない」

「だったら、多分探し出せると思う」

 

 一郎は自信を漲らせて言った。

 

「どうやって?」 

「ハッキングする」

「どこに?」

「全てだ」

 

 一郎は力強く言って続ける。

 

住基ネット。市役所のデータベース。警察の顔認証システム。交通局のカメラ。陸運局。空港の搭乗者リスト。クレジットカードの使用履歴。衛星画像。ありとあらゆる情報にアクセスして、こいつを探し出す。だから――衛宮が優先順位を付けてくれ」

「出来るのか?」

「できる。日本のネット・セキュリティやサイバー攻撃対策なんて、ザルみたいなもんだ。後で捕まることを考えなければ、どこにだって侵入できる」

 

 一郎の実力や能力に疑いの余地は無かった。

 衛宮はそのやり方に賭けることにした。  

 

「分った。まずは住基ネットに侵入して、アラン・リーの住民票が登録されてないか調べてくれ。その後は、ここ数週間の空港の搭乗者リストを洗え。まずはこいつがいつ入国したのか探って、そこから足取りを追う」

「わかった」

 

 一郎は疲労した目を強くこすった後、ネットの海の中に深くダイブしていった。

 

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