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仕事をやめるたった一つのやり方~31話

第31話 お前たちから情報が漏れているからに決まっているだろう

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kakuhaji.hateblo.jp

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イチロー、携帯電話を貸してくれ」

「わっ、わかった」

 

 車の後部座席の下にもぐり込んで小さくなっていた一郎は、不知火から回収した物の中から携帯電話を探しだし、それを衛宮に渡した。

 

 車は乱雑な動きと猛スピードで道路を駆けて行き、一郎はすでに気分が悪くなりじめていた。

 

 衛宮は車を運転したまま電話をかけた。

 

「――響よ」

「衛宮だ。ナオミ、どうなっている?」

 

 衛宮は開口一番怒鳴り声を上げた。

 

「衛宮君、どうしたの? 何があったの?」

 

 響が事態の深刻さを察知して尋ねる。

 

「不知火が死んだ。狙撃主に撃たれた」

 

 衛宮は悔しさを滲ませながら端的に言った。

 

「そんな……どうして?」

 

 響も動揺を隠しきれずに言った。

 

「どうして? お前たちから情報が漏れているからに決まっているだろう」

 

 衛宮が怒鳴り声を響かせた。

 

「戦略捜査室から情報が漏れている?」

 

 響が信じらないと言った。

 

「ああ、そうだ。僕たちがあの倉庫にいることを知っているのは、ごく少数。僕とイチローをのぞけば、戦略捜査室だけだ」

「だったら、あなたたちが発見され可能性だってある」

「それなら、テロリストは部隊を組んでいるはずだ――間違いなく倉庫を包囲していただろう。狙撃主しか配置できなかったのは、情報を得て間もないからだ」

 

 響は衛宮の説明が正しいことを認めざるを得なかった。

 

「確かに、私たちからの可能性が高いわね」

「狙撃主は間違いなく僕を狙っていた。不知火は僕の代わりに撃たれた」

「どういうこと?」

「僕は、戦略捜査室のウィンドブレーカーを着ていた。本当なら、僕が死ぬはずだった」

 

 衛宮はハンドルを強く握って続けた。

 

「ナオミにこの場所を伝えたのは一時間前だ。しかし、敵は情報を得て間もなかった。他の機関と情報を共有したか?」

「いいえ……だけど出発前の会議の後、総理官邸に報告を入れた。定時報告の他に逐一報告を入れるように命じられているの」

「だとしたら……首相の側近全員がこの情報を知りえていた可能性があるな?」

「まさか……政権内部を疑っているわけ?」

「いや、総理官邸には『警察庁』や『防衛省』からも連絡官が出向している。つまり、どの機関も情報を得られたことになる」

 

 二人は事態の深刻さに押し黙った。

 

「今も追われいるの?」

「いや、今のところは大丈夫だ……」

「じゃあ、早くうちに来て。私はそれまでにどこから情報が流出したのかを調べておく」

「情報の流出元を調べるなら……ナオミ一人でやれ。こうなってくると誰も信用できない」

「誰も信用できないって……戦略捜査室には信頼できるメンバーが揃ってる。あなただって、それは知っているでしょう?」

「その信頼できるメンバーの中で情報の流出は起こった。いいか、テロリストの内通者が、戦略捜査室か総理官邸――もしくは首相に非常に近い場所に紛れ込んでいるんだぞ? こうなってくると、そっちのテロ事件の捜査も信用ならない」

「私たちの捜査が信用できない?」

 

 響は語気を強めた。

 

「ああ。戦略捜査室の捜査情報が、内通者に筒抜けになっている可能性を考慮するべきだ。不知火が捜査は進展していると言っていたが……本当なのか?」

「本当よ。私たちは事態を掌握しつつある」

「根拠や証拠があるなら教えてくれ」

「……それをあなたに伝える権限は私にはない。このテロ事件の捜査に、あなたは関係ないし、これ以上……私たちの捜査をかき回さないでちょうだい」

 

 響は先ほど巻波が口にしたことをそのまま衛宮に伝えた。苛立ちを隠しきれなくなっていた。

 

「捜査官が一人死んでいるんだぞ? それも、僕たちを保護しに来た捜査官が。関係がないわけないだろう?」

 

 衛宮も引かずに語気を強めた。

 

「いい加減にして。あなたは言われた通り、戦略捜査室まで鈴木一郎を連れ来なさい。話はその後で聞く」

 

 響はきっぱりと言い放ち、衛宮は表情を厳しくした後、決断を下した。

 

「悪いが、NSIには行けない。そっちの安全が確保されているとも思えない」

「じゃあ、どうするつもり?」

「僕は、僕のやり方でテロ事件の捜査を続ける」

「あなた……本気で言っているわけ? 今も逮捕状が出ているのよ」

「ああ――」

 

 衛宮は頷いて、かつてのパートナーのことを思った。

 

「ナオミ、一から捜査を見直せ。敷島さんを説得するんだ。それと、サイバー・マトリクス社と鵜飼を徹底的に調べ直せ――分ったな?」

「あなたこそ、私の話を聞きなさい。今直ぐにNSIに来て。単独でテロ事件の捜査をしようなんて許さない――分った」

 

 衛宮は響の話を最後まで聞かずに電話を切った。

 そして、途切れた電話口の奥で――かつて自分の相棒だった女性が、舌打ちをしながら頭をかきむしっている光景を思い浮かべた。

 

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