「首相……そろそろお休みになられたほうが?」
総理官邸の執務室では――深夜零時を回った後も執務に追われる首相の姿があった。
補佐官の鴻上が何度か休むように進言したが、葛城首相はその度に首を横に振った。
「関係各省に警戒レベルの引き上げを命じたばかりで、私が今休むわけにはいきません。それより……中国大使から何か情報は上がって来てないのですか?」
「今のところは……」
「いったい何故こんなに時間がかかるのですか?」
首相は不快感を露わにして言った。
「大使の言い分としては……郭白龍の粛清に関わった中国政府の高官が、明日内々に米国に視察に行くようなのです。そのせいで、上手く情報が掴めないようなのです……」
「はぁ……では、誰か別の、情報を知る者とコンタクトを取るように、大使に伝えてください」
首相は重すぎる溜息を吐いた。
「かしこまりました。しかし……おそらく中国側は、情報の価値を吊り上げているのでしょう」
「こんな時でも駆け引きとは……」
首相は首を横に振った。
「政治とはそう言うものです」
老練な補佐官が首相を嗜めた。
「それで、戦略捜査室の方はどうですか?」
「テロに繋がる人物を特定したと報告を受けました。目下捜索中とのことです。後、情報を持っている容疑者の確保に動いているそうです」
「鴻上補佐官、明日テロが起きる前にテロリストを確保できると思いますか?」
首相は補佐官を真っ直ぐに見て尋ねた。
鴻上は執務机に向き合う首相と、その背に掲げられた日の丸の国旗を見て顔を顰めた。
「正直な所……テロが起こる可能性は非常に高いでしょう。しかし、NSIが事態を掌握しつつあるのも事実です。確かなことは何も言えませんが……今は彼らを信じ、私たちは人事を尽くすのみです」
「そして、天命を待つと。もどかしいですね」
首相は拳を握って額を叩いた。
「はい」
鴻上はただ静かに頷いた。
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