仕事をやめるたった一つのやり方~17話

第17話 

私たちが一丸となって、テロに立ち向かうのです

 

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 東京都千代田区永田町。

 総理官邸。

 

『戦略捜査室』の報告を受けた葛城首相は、各省庁への警戒レベルの引き上げを行った後、真っ先に中国大使館の駐日大使を呼び出した。

 そしてテロの脅威を伏せたまま、郭白龍と婁圭虎についての詳細な情報を求めた。

 

 駐日大使は首相の要求を快く受け入れてくれたが、自身の一存では本国の情報の提供はできず、婁圭虎については存在を知らないと述べた。

 

 大使は今から大使館に戻り、本国に確認を取った後、必ず郭白龍と婁圭虎の情報を提供すると約束して総理官邸を後にした。。

 

 大使との会合は、外交上の儀礼的なやり取りのみに終始して幕を閉じた。

 

「分ってはいたことですが……何の手がかりも得られませんでしたな?」

 

 駐日大使が総理官邸を後にした後、首相の執務室で鴻上補佐官が言った。その深い皺の刻まれた顔は厳しく、不快感に満ちていた。

 

「ええ。ですがメッセージにはなったでしょう。我々はテロの情報を掴み、テロリストの首謀者を知っていると」

「はい。私も、まさかこのテロに中国政府が関わっているとは思いませんが、何かしらかの繋がりがあるのなら、十分なプレッシャーにはなったでしょう」

「我々が事態を掌握できていると思わせられればいいのですが」

 

 補佐官同様、首相も厳しい表情まま告げて目を瞑った。

 

 背凭れの高い椅子に深く背を預け、これから高い確率で起こるというテロに立ち向かう決意を新たにしていた。

 

 執務室に掲げられた『日本国旗』。

 

 首相の背で燦然と輝く日の丸の旗と同等に、葛城素子は日本国民をその背に背負っているのだと、今一度自分に言い聞かせた。

 

 自分が、このテロの脅威に立ち向かうのだと。

 

「戦略捜査室からの報告はどうですか?」

「はい。手がかりは掴んでいるようです。今現在はテロの標的になりそうな施設やシステムの絞り込みと、犯人確保に向けて情報を精査している最中だと」

「そうですか」

「首相、時期尚早だとは思いますが……自衛隊の出動も視野に入れて、部隊の招集だけでもやっておかれた方が良いのでは?」

 

 補佐官は禿げた頭を撫でながら、お伺いを立てるように助言した。

 

「もちろん、自衛隊の出動は視野に入れていますが、部隊を招集すれば国民に不安を抱かせるのも事実です」

「ですが……」

「こんな夜遅くに突然の招集となれば、国民を納得させるだけの説明が必要になります。今はまだマスメディアに騒がれては困ります」

「確かに。テロ事件を公表できないことを鑑みれば……今のところは検討に止めておくほかありませんな」

「私もそう思います」

 

 首相は深く頷いた、

 

自衛隊には、明日行われるすべての作戦や訓練の中止を命じてあります。予備役の招集も含めてテロへの対応を検討させていますが、検討で終わることを願わずにはいられません」

「当たり前です。日本国内で自衛隊の活動を命じるなどという自体は避けなければなりません」

 

 首相は頑として言った。

 

「それと、明日行わる予定の米国との共同開発中の無人機のテスト飛行なのですが……如何いたしますか?」

「もちろん中止にしてください」

「ですが……アメリカ政府との約束を反故にして、これ以上開発計画を遅らせたとなると、アメリカ政府からの圧力が予想されますが」

 

 補佐官は困ったように毛の頭を撫でた。

 

 米国との無人機開発は、アメリカ政府の強い意向によって決定したという経緯があった。

 

 日本国内で起きた半年前のテロ事件で、日本政府が上手く事態を掌握できなかったことを受け、アメリカ政府が日本国内に置かれた米軍基地がターゲットにされかねないと難癖をつけてきたことが、そもそもの始まりだった。

 

 アメリカ政府の要求は多岐に渡り、その要求の一部が米国の技術供与の元、日米共同で無人航空機を開発するというものだった。

 

 開発される航空機は無人機とは言っても攻撃機能を持った戦闘機であり、その承認には国民や議会に多くの反発を招いたが、葛城首相と総理官邸はその要求を呑まざる得なかった。

 

 その要求が呑まれない場合、アメリカ政府は自国の民間軍事会社の日本国内での活動を認めるように迫って来ていたからだった。

 

 9.11の同時多発テロ以降――世界各地のテロリストと戦い続けてきたアメリカ軍は、軍事力の展開に限界を迎えていた。

 

 民間軍事会社は、アメリカ軍の穴を埋めるために世界各地で活発な軍事的活動を行い、今では米国の軍事行動に必要不可欠な存在へ――陸・海・空軍に次ぐ第四の軍となっていた。

 

 そして、これ以上戦線を広げることができず、不安定化する東アジアから撤退したいアメリカ軍の変わりを、アメリカ政府は自国の民間軍事会社に担わせようとした。

 

 これには葛城首相と日本政府は猛然と反対を唱えた。

 

 アメリカ政府の監視やコントロールを受けず、自社の利益をのみを追求する民間の軍事会社を、日本国内で活動させるなど断じ出来ないと。

 

 そして、その代わりに無人機の共同開発は受け入れざる得なかった。

 

 この無人機計画により、アメリカ政府は東アジアによる軍事的プレゼンスを強化し、日本国内に置いた米軍基地の縮小と撤退を行いことができる。

 

 その道筋でアメリカ政府との一応合意はできていたが、未だにアメリカは自国の民間軍事会社の日本国内で活動を要求しており、無人機計画に支障や開発の遅れが出れば、その話が蒸し返されるのは自明の理だった。

 

「いいですか? 今我々は有事を迎えようとしています。そのような時に、他国の要求を気にしている暇はありません。無人機のテスト飛行は中止だと伝えなさい」

 

「分りました」

 

 補佐官は頷いて、別の話題に移ることにした。

 

「それと今後の政権運営なのですが……この事件が終われば国会での突き上げは間違いなく強まります。首相のリーダーシップを発揮する上でも、テロ関連法案の一部改正と戦略捜査室の捜査権の拡大などを打ち出してみてはいかがですか?」

「それも時期尚早ですね。補佐官は先ほど敷島室長からのお言葉を気にしているのでしょうが、平時での捜査権の拡大はできるだけ避けたいところです」

「首相のお考えは理解しますが……テロに対する力強い政策を打ち出さなければ、今後の政権の求心力が失われかねません。そうなれば、支持率にも影響が――」

「私の支持率や求心力は関係ありません」

 

 首相は静かな口調ながら、強く断言すように言って続けた。

 

「今は、今後の政権運営や国会対策を話し合うのではなく、目の前の脅威に向き合うことだけを考えましょう。戦略捜査室が全力で捜査を行えるように万全を期するのが、今の私たちの役目です」

「もちろん、その通りです」

「私たちが一丸となって、テロに立ち向かうのです」

「御意」

 

 葛城首相の力強い言葉を受けて、鴻上補佐官は深々と頭を下げた。

 

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