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仕事をやめるたった一つのやり方~15話

仕事をやめるたった一つのやり方 小説

第15話 神業

本日の『カクヨム』ミステリーランキング47位でした。ありがとうございます!!

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kakuhaji.hateblo.jp

 第一話はこちらから読めます ↑

 

 その後、盗んだ車を乗り捨てて黒のレクサスに乗り換えた二人は、首都高速に向かって道路を進んでいた。

 

「これからどうするんだよ?」

「どうしたものかな……」

 

 衛宮は考えあぐねたように言った。

 

「警察に行くんじゃなかったのかよ?」

「そのつもりだったんだが、鳩原が死んだ。彼の自供がない以上、少しばかり筋書きが変わってきた」

「筋書きが変わった? とにかく警察に行ってくれ……もう危険な目に合うのは勘弁だ」

 

 一郎が声を荒げて言った後、衛宮は車のミラーを見て舌打ちをした。

 

「くそっ。追われてる」

「追われてる?」

「ああ。三台後ろの黒のバンと、その後方、右車線のシルバーの乗用車。少なくとも二台で追跡されてる」

「どっ、どうして俺たちの位置がバレたんだ?」

「知るか。交通局の監視カメラ網にアクセスでもしたんだろう。それか、たまたま発見されたかだ」

 

 衛宮は投げやりに言って車の速度を上げた。流れるようなハンドリングさばきで前方の車を次々と追い抜き、首都高速に入ってさらに速度を上げた。

 

「なぁ、俺たちを追ってきている奴らって……その『蛟竜』っていう特殊部隊の兵士なのか?」

 

 一郎は揺れる車内で顔を引き攣らせながら尋ねた。

 速度計を見てみると、百四十キロ以上は出ていた。

 

「いや、おそらく違うな。特殊部隊にしては手際が悪いし、尾行も下手くそ過ぎる」 

「じゃあ、誰が俺たちを追っているんだ?」

「たぶん、国内の潜伏していたテロリストか、中国マフィアあたりだろう。蛟竜は裏社会のビジネスに通じている」

「……裏社会? 中国マフィア?」

 

 一郎は信じられないと首を横に振った。

 

 首都高速に入ってしばらくすると、車の通りはまばらになり、後ろから追ってきている二台の車の影がミラー越しに見え始めた。

 

 次の瞬間、銃声と共にレクサスに衝撃と甲高い金属音が走った。

 

「――くそっ」

 

 衛宮は車を蛇行させるが、窓から顔を出した追跡者たちの数は―――二人、三人、四人と増えて行き、銃弾の雨がレクサスを襲った。

 

「おいっ、これじゃ……いつか捕まるぞ?」

「分ってる。少し静かにしてろ」

 

 衛宮はアクセルを限界まで踏み、時速百六十キロで高速を駆け抜ける。しかし、後続の車は引き離せず、その間も銃撃は続いた。

 

 このままではいつか銃弾がタイヤに当たり、逃走が不可能になると考えた衛宮は――瞬時に反撃に打って出る決断した。

 

イチロー、車のサンルーフを開けてくれ」

「サンルーフ?」

 

 一郎は顔を上げ、そこにサンルーフがあることに気が付いた。

 

「開けてどうするんだよ?」

「いいからやれ」

「分ったよ」

 

 一郎は言われるままに車のサンルーフを開けた。

 

 車内に外の空気が入り込み、それと共に極度の緊張が走った。

 

 ほんの少しでもタイミングを間違えればお終いだ――それにハンドリング、ブレーキング、状況判断、全てが求められる

 

 衛宮はそう自分に言い聞かせ、周囲の状況を詳細に把握し始めた。

 高速道路はこのカーブを抜ければ長いストレートに入る。湾岸線の長い道路で視界は十分に開けているし、周囲に車の通りも少ない。

 

イチロー、僕が合図をしたら運転を変われ」

「運転を変わる? こんな速度で無理に決まっているだろ」

「いいか、良く聞けよ。この状況を乗り切るにはこれしかない。お前が運転をするんだ、分ったな?」

 

 凄みを聞かせた衛宮の言葉に、一郎は言葉を失った。 

 サイドミラー越しには、銃弾を断続的に放っている追跡者の姿があった。

 レクサスに着弾した音が響いた。

 

「分った。どうすればいい?」

 

 一郎は覚悟を決めて言った。

 

「僕が変われと言ったら、ハンドルを握れ。そして足を延ばしてアクセルを限界まで踏み抜け。できるな?」

「ああ。やるよ」

「よし。行くぞ?」

 

 衛宮は言葉と共に行動を開始した。

 ハンドルを勢いよく切って車体を百八十度スピンさせる。するとレクサスは車線と反対向き――追跡者たちの車と向かう合う形になった。

 

 車体が完全に追跡者たちと向き合った瞬間、衛宮はギアをバックに入れる。

 車はバックのまま、後続の車と睨み合う形で走って行く。

 

「――イチロー、変われ」

 

 一郎は衛宮の合図で手を伸ばしてハンドルを握り、足を伸ばしてアクセルを踏み込んだ。手と足に最大限の力を込め、そのままの状態を維持しようと、体全体を石のように強張らせた。

 

 衛宮は一郎が運転を変わった一瞬を逃さず、即座にシートベルトを外して運転席の上に立ち上がった。

 

 両方の手にそれぞれ拳銃を握り、サンルーフから顔を出して銃を構える。二丁の拳銃が火を吹き――レクサスを追跡する二台の車目がけて弾丸を発射した。

 

 右手に握った銃が黒いバンのフロントウインドウを撃ち抜いて運転者を射殺し、左手に握った銃がシルバーの乗用車のフロントタイヤを撃ち抜いた。

 

「よし。運転を変われ」

 

 衛宮は合計五発の銃弾で標的を正確に仕留め、直ぐに運転席に戻って一郎から車の運転を取り戻した。そして、もう一度車体を回転させて前方を向き直し、ギアを入れ替えてアクセルを踏み込んだ。

 

 その背後では――運転手が射殺されたバンのコントロールが不能になり、パンクしてスピンをし続けるシルバーの乗用車と激突した。猛スピードからコントロールを失って激突した衝撃は凄まじく、二台の車はその場で爆発した。

 

 一郎は背後の爆発を見届けて大きく息を吐き、こんな神業のような芸当を、さも当たり前のように熟してみせた衛宮を、信じられないと見つめた。

 

「こんな運転無茶苦茶だ……ハリウッド映画のスタントだってやらないぞ?」

 

 一郎は強く抗議するように言った。

 

「なに、ミハイル・シューマッハほどじゃないさ」

 

 しかし、衛宮はその言葉を褒め言葉と受け取ったのか、勲章をもらった子供のように無邪気に笑ってみせた。

 

 その瞬間、大型の車が二人の乗るレクサスに突っ込んできた。

 

 レクサスの車内を激突の激しい衝撃が襲った。

 突如前方から現れた大きな車は、首都高の路肩に身を隠し、二人の乗るレクサスが来るのを待ち構えていたようだった。

 

 レクサスは改造されて装甲車並みの強度を持った『ハマー』に弾き飛ばされ、道路の上を横転した。

 

「――くそっ」

 

 衛宮の必死のハンドリングも虚しく、エアバックの作動した車内は激しく揺れ、その衝撃で一郎は気を失った。

 

 衛宮の意識も次第に薄れて行き、そして気を失う瞬間――衛宮はハマーから飛び出した武装した戦闘員の姿を目撃した。

 

「早く連れ去れ。次期に警察が来る」

 

 二人は横転した車から引きずり出され、襲撃者たちのハマーに詰め込まれた。

 そして、車は暗い闇の中に消えて行った。

 

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