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青い春をかける少女~15話

15 ずる、日差し、蝉の音

 

kakuhaji.hateblo.jp

 第一話はこちらから読めます ↑

 

 私とハニー――二人の間には、気まずさの川が流れていた。

 川のこちら側には私が所在無さ気に立ちつくし、川の向こう側には表情を押しころしたハニーが立っていた。

 

「で、なんのよう?」

 

 ハニーの声は刺々しくて、とても痛かった。

苛立ったように腕を組んで、足を踏み鳴らした。

 

 恩賜公園の日差しはいつもよりも鋭く照りつけて、木陰に入ったはずの私たちに何かを焚きつけるように照らした。けれど熱さは気にならなかった。

 

 私たちの間に流れる空気は完全に冷え切っていたから。

 

 始業式に出るために登校をした私たちは、学校の中ではいっさい口をきかなかった。ハニーからは“話しかけないで”という刺々しいオーラが出ていたし、私自身も教室でいきなりハニーに声をかけて、昨日の説明を始める勇気も度胸もなかった。

 

 一之瀬君とは式に向かう最中と、式の途中で目が合ったけれど、私は気まずさのあまり目をそらしてしまった。

 こんなことはよくないって分かっていた。

 昨日の返事を、しっかりしなくちゃいけなんだって分かっていたけど、とにかくハニーと話をするまではどうしようもできなかった。

 

 まずはハニーと話をする。

 

 それだけを考えて私は今日一日を過ごしていたけど、ハニーはまるで私のことなんか気にならないみたいに、何事もなかったかのように最後の登校日を過ごしていた。クラスの女の子と楽しそうに話していて、ころころ笑ったりして、夏休みに遊ぶ約束なんかをしていて、私はその場で泣いてしまいそうだった。

 

 始業式が終わってホームルームが終わった後、私は何とか自分を奮い立たせてハニーの席の前まで向かった。

 

「ハニー、話しがあるから一緒に帰ろう」

 

 ハニーは仕方ないって感じで頷いた。

 そして今、私たちは川を挟んで向かい合っている。

 

「ハニー、昨日のことなんだけどね――」

「ああ、ハルが何の用事もないって嘘ついてたこと?」

 

 ハニーの先制攻撃に、私は胸をぐさりと刺された。

 

「あの、そのことなんだけどね……私、一之瀬君にね――」

「告白されたんでしょ?」

 

 ハニーは私の声をかき消すよう大声を出した。

 

「私に嘘ついて、二人で公園で楽しくデートしたんでしょう? あんな男が好きそうな服装で楽しくボートなんか乗ったりして、それで告白されたんでしょ? ぜんぶカエデに聞いた」

 

 私はハニーの剣幕に押されて何も言い返すことができずにいた。

 涙でにじむ瞳でハニーを見つめていることしかできなかった。

 

「ハルは年上のお兄さんに夢中だったのにね。そう言えば、ハルはカエデのこと気にしてたもんね? あれ……双海のことが気になってたんだっけ? 気が多いとモテていいよね」

 

 その言葉に私は深く傷ついた。

 ハニーからこんなひどい言葉を聞くなんて思わなかった。

 ちゃんと説明すれば分かってくれるって思ってた。

 だけどハニーは私の言葉に聞く耳をもってくれず、怒りに任させて棘のある言葉を投げつけるばかりだった。

 

 ハニーが怒っている理由は分かってる。

 そんなこと、分かってるよ。

 ずっと前から気がついていた。

 だって昨日のハニーの顔を見れば、どんなニブチンだって気がつくよ。

 ハニーは一之瀬君が好きなんだ。

 きっと、ずっと前から好きだったんだ。

 だから、一之瀬君に告白された私が許せないんだ。

 

 その気持ちは理解できた。

 だけど少しぐらい私の話を聞いてくれたっていいのに。

 

「二人で仲良く……付き合って恋人同士になりなよ。私には関係ないし」

 

 ハニーは震える声で捲し立てると、踵を返して歩き出した。

 

「ハニー待って……お願い」

 

 私は縋るように言って手を伸ばした。

 

「いい加減、そのふざけたあだ名で呼ぶのやめてよっ……ずっとイラついてるんだから」

 

 振り返ったハニーが叫ぶよう言った。

 その目には大粒の涙が溜まっていた。

 ハニーはとても傷ついていた。

 私は思いきりに頬を叩かれように体をびくりと震わせた。

 伸ばした手を、私はそれ以上伸ばせずにいた。

 

「ハルは……ずるいんだよ」

 

 ハニーは体を震わせながら続ける。

 

「男の前でかわい子ぶって、初心な女の子ぶって……みんなハルのことかわいいって思うよ。好きになるよ。私なんかと違って」

 

 ハニーは走り去っていった。

 今度は、その背を追うこともできずにいた。

 

 私はただただ立ち尽くしたままだった。

 夏の日差しは苛立つほどに眩しかった。

 蝉の音は耳を塞ぎたくなるほどに五月蠅かった。

 

 

こんなにも夏を嫌だと思ったのは初めてだった。

 

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