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青い春をかける少女~11話

11 ジェラート

 

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 そのメッセージが届いたのは、夏休みを目前に控えた日だった。

 日の長い一日の放課後だった。

 

 私たち中学三年生にとっては、中学生生活最後の夏。最後の夏休みを目前に控えて、どことなくそわそわした気持ちを押さえつけた、弾むように熱い日の夕暮だった。

 

 その日の放課後を、私はハニーと一緒に過ごしていた。

 

 先日一緒に行けなかったジェラート屋さんで甘い舌鼓をしていた。

 私はストロベリー&チョコレートのジェラートを、ハニーはレモン&バニラのジェラートを注文して、店内のイートイン・スペースに座って、お互いのジェラートを食べさせ合いっこしながらガールズ・トークに花を咲かせていた。

 

「一之瀬君と双海君も誘ったほうがよかったのかな?」

「へぇ……ハルは二人のどちらかにお気に入りがいるのかしら? 女の子二人じゃ退屈だった?」

「そんなんじゃないってば。ただ……このあいだ断っちゃったから」

「わかってるって。ハルは年上のお兄さんにお熱だもんね?」

「それも違くてー。夏緒さんは、お熱とか、恋愛とか……そんな感じじゃないよ」

 

 私は顔を真っ赤にした。

 

「あれー、私は年上のお兄さんとしかいってないけど、もしかしてハルの気になる人は夏緒さんって言うんだ?」

「もー、ハニーの意地悪―」

 

 私は頬を膨らませた。

 

「ごめんごめん。ほら、私のジェラートもう一口あげるから機嫌直して」

「そんな簡単な手で私の機嫌を取ろうとして――」

 

 私は差しだされたジェラートを一口頬張った。

 んー、なんてデリシャス。

 

「でもさー、じっさい十も歳の離れた人じゃ、恋愛とかそんな雰囲気にならないよね?」

「そうかな?」

「私たちなんてさ、その夏緒さんって人から見たら完全に子供だろうし、私から見ても十も年上の男の人なんて完全にオヤジだよ」

夏緒さんはぜんぜんおじさんじゃないよ。そんなに年齢が離れてるようには見えないし、爽やかでかっこいいし、楽器も絵も上手だし、少し意地悪だけど優しいところもあるし」

 

 私が必死に夏緒さんを擁護すると、ハニーはにやにやと笑っていた。

 またしてもハニーに謀られてしまった。

 恥ずかしい。

 

「それに、きっと夏緒さんにはお付き合いしている人とかいると思う」

 

 私はしょぼんとなって言った。

 

「聞いたの?」

「聞けないよ」

「じゃあ、どうして?」

「なんどかね……女の人と一緒にいるところ見たことあるの」

「そんなの友達かもしれないじゃん? だって大学ここらへんなんでしょ? 大学の友達だって」

「そうかもしれない。でもね、その女の人がね……夏緒さんのバイクの後ろに乗ってたの」

「バイクの後ろ? それがどうしたの?」

「私はね……一度も夏緒さんのバイクに乗せてもらったことないの。危ないからダメつて。自転車の後ろにも乗せてくれたことないんだよ?」

「それは法律違反だからじゃないの?」

「たぶん違うと思う」

「そうかなあ?」

「きっと特別な人しか……夏緒さんの後ろの席には乗れないんだよ。それで私は夏緒さんの特別な人じゃないんだよ。ただ年上のお兄さんに懐いている近所の女の子なんだよ」

「うわー、けっこう重症だ」

 

 私も、自分で分かってる。

 これはなかなか重症だって。

 でも、だからってどうしようもない。

 どうしようもできない。

 べつに夏緒さんの恋人になりたいとか、お付き合いをしたいとか、そこまで考えてるわけでもないし、そんな高望みをしてるわけじゃない。そもそも私と夏緒さんじゃぜんぜん釣り合わない。

 それにこれがきっと、実ることのない恋で、儚い片思いで、ほろ苦い初恋になるってことは、わかってる。わかってるんだ。

 

 それなのに私はどうしようもなく夏緒さんに恋をしているんだと思う。

 それはもうぞっこんってほどに、まいっているんだ。

 

「ねぇ……ハニーはどうなの?」

「私、なにが?」

「だから……好きな人とかいないの?」

「うーん、うちの中学たいした男の子いないからなー」

「じゃあさ、一之瀬君は?」

 

 私は勇気をだしてズバリ聞いてみた。

 ここまで私にばっかりに話をさせたんだから、ここで私が少しばかり反撃に出たってバチはあたらないと思う。

 

「……カエデ? やめてよー」

「えー、どうして?」

「あんなの小学校からの腐れ縁で、うるさい弟みたいなものなんだから。それかペットの犬?」

「ペット? ひどい」

 

 私は一之瀬君に同情の声を上げた。

 

「えー、私はハニーと一之瀬君ずっとお似合いだなって思ってたのに。私の見立ては的外れだったんだ」

「ハルはニブチンだからね。私の淡い乙女心は理解できないのよ」

「ニブチンってひどいよー。私も乙女なのに」

 

 ハニーはころころと笑っていた。

 

「じゃあ、ハニーはどんな男の子がタイプなの?」

「私かー? 私はさ、私にぞっこんな男の子がいいな」

「ハニーにぞっこん?」

「そう。ハルみたいにさ、相手を好きになって、片思いして、追いかけるんじゃなくてさ、私のことを好きになって、片思いされて、追いかけられるの」

「うーん、たしかにそっちの方がいいかも」

「それで、私はそれをめいいっぱい焦らして、なかなか答えをあげないの。手のひらに乗せてコロコロして楽しむの」

「ハニー……それ悪女だよ。怖い。恐ろしいよ」

「えー、やっぱり女の子は恋をするよりも。恋をされなきゃ」

「そうなのかなー?」

「そうだって」

「なんだか私だったらすごく疲れちゃいそう。それに相手に申し訳なくて、焦らしたりもできそうもないし」

「まぁ、ハルは鈍感で、純粋で、純朴だしね」

「何だか褒められてないみたい」

「まぁ、ハルの個性の一つってところだよね」

「もー、やっぱり褒めてない。すぐからかうんだから」

 

 私が不満をもらしていると、そこで私の携帯電話にメッセージが届いたことを知らせるメロディが鳴った。タッチパネル画面を操作してメッセージを確認した。

 

「あ、一之瀬君だ」

 

 私は意外な人物からのメッセージに驚いた。

 噂をすればなんとやら。

 

「カエデ、何だって?」

「えっとねー」

「“今何やってる?”だって」

ボキャブラリーのない男ねー」

「“ハニーとジェラート屋さんにいるよ。一之瀬君も誘ったほうがよかったかな?”と」

 

 私は返信する内容を読み上げながら携帯電話に打ち込んで、一之瀬君にメッセージを返した。

 メッセージは直ぐに帰ってきた。



『今日は部活の引継ぎだったから無理だ。ここから先の内容はハチミツに内緒にしてくれない?』

 

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