読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

仕事をやめるたった一つのやり方~7話

第7話 仕事をやめるたった一つのやり方

 

kakuhaji.hateblo.jp

 第一話はこちらから読めます ↑

 

 二人は車内にいた。

 衛宮が運転してきた黒のレクサスSUVに乗り込み、無事にあの場を抜け出すことに成功した。その際、衛宮は一郎のスマホを取り上げ、近くの自動販売機のゴミ箱に捨てさせた。

 レクサスの助手席に座った一郎は、ハンドルを握っている衛宮に落ち着かない視線を向けた。

 

「なぁ、あの男は何者なんだ?」

「僕が知るわけないだろう?」

 

 衛宮は前を向いたまま答えた。

 レクサスは青梅街道を新宿方面へと向かっていた。行き交う車の通りは活発だったが渋滞という程でもなく、比較的スムーズに進んで行った。

 

「あの男がお前の自宅に侵入していたことは分った。僕が聞きたいのは、そうなった経緯だ」

「……経緯?」

「お前は、誰かの端末に侵入したって言っていたよな? 誰の端末に侵入して、何を見た? イチロー、全部話してくれ。そうじゃなきゃ、君の力になれない」

「……分った。全部話すよ」

 

 一郎は全てを話す決心をした。

 

「俺の上司……鳩原部長の端末に侵入したんだ。そうしたら暗号のかかった電子メールと、多額の振込みのあった銀行口座を見つけた」

「不正な取引か?」

「そう思って電子メールを解読しようとしたんだ。そうしたら……システム開発部の室長の名前が判明して、うちの部署がシステム開発部とやり取りをするなんておかしいと思ったから……二人の会話を盗み聞きした」

「直接か?」

「違う。携帯電話をハッキングした」

 

 一郎はハッキングのやり方を説明した。

 

「そうしたら、鳩原部長がテロって言ったんだ。それも……テロは明日起るこって――」

「テロ? 本当にそう言ったのか?」

 

 衛宮は声音を厳しくして追及した。

 

「ああ、間違いない。ハッキリとテロって言った」

 

 詳しい内容を説明し終えると、一郎は深くうなだれた。

 衛宮は深刻な表情で何かを考えているみたいだった。

 

「こんなことに……こんなことになるなんて思わなかったんだ。なぁ、さっきの男は何者なんだ?」

「明日テロを起こす奴らの一味だろう」

「さっきの奴が? 俺が二人の会話を聞いたのがバレたってことなのか?」

「状況を考えれば間違いないだろうな」

「そっ……そんな」

「おそらく、お前を狙ったのは末端の構成員だろう。腕が悪すぎる。身分証の類は持っていなかったが、おそらく中国人だな」

「中国人? 俺を捕まえてどうするつもりだったんだ? 俺を……殺そうとしたのか?」

「お前を部屋に連れて帰るって言っていたことを考えると……おそらくお前に話を聞いた後、自殺に見せかけて殺す気だったんだろう」

「自殺に見せかけて殺す? どうして?」

 

 一郎は声を荒げた尋ねた。

 

「テロの濡れ衣を着せるのが目的だろうな」

「テロの……濡れ衣?」

「ああ。おそらく筋書きはこうだ――」

 

 衛宮は説明を始めた。

 

「お前がテロに関する証拠を掴み、鳩原と鵜飼の会話を盗み聞きしたことが発覚した。そのため、お前の口を封じる必要が生じた。その際、偽の証拠でお前に濡れ衣を着せることで、鳩原と鵜飼に捜査の手が及ぶのを防ごうとした。または時間稼ぎか。今頃、お前の会社のパソコンには、テロに関する偽の証拠が仕込まれているはずだ」

「そんな馬鹿な? 俺がテロなんて起こすわけがないだろう」

 

 一郎はそんなことがあり得ないと強弁した。

 

「だが、証拠さえ見つかればそんなことは関係ない」

「偽の証拠だろ?」

「そうだが、お前の今日一日の不審な行動の数々を見れば、偽の証拠だって真実味を増すさ」

「……不審な行動?」

「会社のシステムに侵入したこと。会社を早退したこと。警備員の制止を振り切って逃げたこと。誰の電話にも出なかったこと」

「そんな? 俺は、ただ怖くて……」

 

 一郎はそこでようやく、今日自分が行ったすべての行動が裏目に出ていたことを思い知らされた。

 

「そもそも、お前は日常的に会社のシステムに侵入していたんだろう? 十分反社会的な人間だ」

「それは――」

「実際にテロが起きてお前に捜査の手が及べば、それも発覚するだろう。そうなれば、テロを起こすだけの動機は十分と見なされるはずだ」

「そんな、だからって……俺はどうしたらいいんだ? そうだ。今から警察に説明すれば」

 

 一郎は窓の外の流れる景色に交番を見つけて言った。

 

「いや、向うはすでに先手を打っているだろうな。それに、そもそもテロを示す証拠は何もないんだ。警察も動きようがない」

「でも、少なくとも話は聞いてくれる」

イチロー、お前は命を狙われるんだぞ? 警察はお前の話は聞いても、お前の命を守ってはくれない」

 

 衛宮は深刻な表情で告げた。

 

「じゃあ……俺は、一体……どうすればいいんだ」

「こっちが先に証拠を掴む」

 

 衛宮は簡潔に言った。

 

「証拠を掴む?」

「ああ。鳩原を問い詰めて、テロに関わった自供を引き出す」

「そんなことできるのか?」

「お前の協力があればそれほど難しくないだろう」

「……でも、だからって――」

 

 一郎は激しく狼狽した。そして、隣で異常なくらい落ち着いている衛宮を見て、信じられないと首を横に振った。

 

「衛宮、お前はこんな状況なのに……何で、何でそんなに落ち着いているんだ? 銃なんかどこで手に入れたんだ? お前は、ただの危機管理のコンサルタントなんだろう?」

イチロー、今は僕が何者かなんてどうでもいいことだ」

 

 衛宮は二の句を告げさせないように言った。。

 

「ハッキリしていることは――明日この国でテロが起き、お前はテロに関わった罪で投獄される可能性がある。そうなれば、お前は終身刑を間逃れない」

終身刑?」

「お前が無実を証明するたった一つの方法は、鳩原から自供を引き出すことだ」

 

 一郎は衛宮の話を聞き終え、絶望的な気持ちで天を仰いだ。

 

「俺はただ……今日仕事を辞めようと思っただけなんだ。部長の端末にハッキングしたのだって、仕事で苛立った気分を紛らわそうとしただけで……それなのにどうしてこんなことに――」

「僕に言い訳をしたってこの状況は何一つ改善しないぞ。無事に明日を迎えたいなら、このやり方しかない」

 

 これが仕事を辞めるたった一つのやり方なのか?

 

 そう思った瞬間、一郎は決意した。

 

「分った。そのやり方に賭けるよ」

 

------------------------------------------------------

続きはこちらで読めます ↓

 

kakuyomu.jp

バナー画像