2016-03-15 ひとりぼっちのソユーズ Fly Me to the Moon~1 小説 ひとりぼっちのソユーズ(完結済み) intro ユーリヤ 幼いころに出会った外国の女の子ユーリヤ。彼女は僕にとって特別な女の子で、僕の女王様だった。彼女は僕のことを『スプートニク』と呼び、僕に色々なことを教えてくれた。宇宙のこと、月のこと、アームストロングっていう嘘っぱちのこと。彼女はいつも『北方四島』を賭けた。いつしか僕たちはばらなたになり、彼女を一人ぼっちにしてしまった。 だから、あの月の綺麗な夜――僕は思ったんだ。僕は月向うんだった。君を月に連れて行くために。君をひとりぼっちにしないために。少し泣ける短編小説です。全9話で直ぐに完結します。以前とある電子書籍雑誌に掲載してもらった短編なのですが、腐らせておくにはもったいないなあと思い、今回引っ張り出してきました。よろしくお願いします。 intro ユーリヤのことを今も僕は思いだす。 もう、あれからどれくらいたったんだろうって。 そのたびに、ずいぶんたったんだなって――過ぎてしまった時間の膨大さに途方に暮れてしまう。 そして、浮かび上がる思い出の数々に耳をかたむけて、手を伸ばしてしまう。 ユーリヤが言ったみたいに、僕たちはずいぶん遠くまで行けるようになったんだよ。いろいろな問題を曖昧にして、棚に上げてしまったままだけど。 僕はユーリヤの『スプートニク』だった。 いつも君のそばにいた。君の話を聞いて、君の背中を眺めて、君の棚引かせる長い髪を猫のように追いかけていた。 こんなことを考え出すと、いろいろめそめそした気持ちになっちゃうから、本当はもっと楽しいことでも考えて、これから目の前に広がるはずの光景に胸をときめかせたり、隣に腰を下ろしているクルーにジョークの一つでもかましたりしたほうがいいと思うんだけど、やっぱり考えずにはいられなかった。 だって――僕はもう一度ユーリヤの背中を追って、もう一度ユーリヤの『スプートニク』になりたくて、君を『ひとりぼっち』のままにしておきたくなくて、今この場所にいるんだから。 そろそろカウントダウンが聞こえてくる。 僕は目をつぶって両手を強く組み合わせた。 それは、はたから見れば神様に祈っているように見えたかもしれない―― ――だけど、僕は絶対に神様に祈ることはないんだ。 ---------------------------------------------------- kakuyomu.jp